超希薄燃焼のカギを握るのが、高圧縮比化と点火プラグを着火補助に使うことだ。燃やすのが極めて難しい超希薄な混合気を、常用域のほとんどで圧縮着火できる。過給機でEGRによる排ガスを筒内に多く押し込み、燃焼を安定させるのも特徴。熱効率は、ディーゼルを上回りかねない画期的な水準に達するだろう。

 マツダが2019年前半に量産する計画の次世代ガソリンエンジン「SKY
ACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」。常用域のほとんどで圧縮着火(CI:Compression Ignition)することで、燃料と空気の質量比である空燃比で30を超えるスーパーリーンバーン(超希薄燃焼)を実現する。熱効率を高めて、エンジン単体のCO2排出量を最大で現行比3割減らす(図1)。

図1 燃費性能でディーゼルを上回る水準に高めた
図1 燃費性能でディーゼルを上回る水準に高めた
SKYACTIV-Xの燃料消費率は、現行ガソリンエンジンに比べて大幅に少ない。300k~800kPaと中高負荷域でディーゼルを下回る驚異の水準に達する。マツダの資料を基に本誌作成。
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 3割減った分がほとんど熱効率向上によるものとすると、次世代機の最高熱効率は45%前後に達する(「希薄燃焼で熱効率が上がるワケ」参照)。ディーゼルエンジンの最高水準を上回りかねない画期的なガソリンエンジンだ。

 圧縮着火は、気筒内の圧力を高めて高温にして、燃料と空気の混合気を自着火させて燃やす技術。火花で点火し、火炎伝播で燃やす通常の火花点火(SI:Spark Ignition)に比べて、薄い混合気を燃やしやすい特徴がある。「均一予混合圧縮着火(HCCI:Homogeneous-Charge Compression Ignition)」とも呼ばれる技術だ。

 課題は、エンジンの限られた負荷域でしか安定した圧縮着火が成立しないこと。低負荷域は筒内圧が低く自着火しにくい上、高負荷域は逆に激しく燃える、高回転域は着火が間に合わなくなる。長年多くのエンジン研究者が手掛けるが量産しない夢の技術だった。

 マツダは現行のガソリンエンジンで達成した世界最高の圧縮比14をさらに高めて、過給機を使いながらも16にする(図2)。筒内圧を高めれば、自着火しやすくなる。さらに圧縮着火領域を広げるため、点火プラグを着火補助に使うなどの新技術を投入した。

図2 SKYACTIV-Xの主な新技術
図2 SKYACTIV-Xの主な新技術
圧縮着火で超希薄燃焼を実現する主な技術を示した。
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 エンジン回転速度で4000~5000rpmまでの常用域のほとんどで、圧縮着火による超希薄燃焼を実現する。それ以上の高回転域や全負荷に近い領域では、火花点火の理論空燃比(ストイキオメトリー)燃焼に切り換える。