「世の中で初めてのもの、よそがやろうとしないものをやりたがる」。山科精器代表取締役社長の大日陽一郎氏は、同社の社風についてこう語る。未知未踏な領域へ積極果敢に挑戦するという従業員のパイオニア精神が、同社の最大の強みだ。

 同社の主要事業は用途を特化した専用工作機械、船舶や発電プラント向けの熱交換器、産業機械や船舶機関向けの潤滑機器(注油機)を柱とする。これらに取り組む中で新たなニーズをつかみ、蓄積してきた自社の技術力をベースにして生まれた製品がある。

現場の「困った」を解決

 2017年4月に発売した「Edgenein」は、鋼板の面取りやバリ取りを効率的に実施できる省力機器だ(図1)。開発のきっかけは、造船における鋼板の塗装に関する基準の変更だった。国際海事機関(IMO)が2006年12月8日に採択した「IMO塗装性能基準」(通称PSPC)では、塗装がはがれにくくするために、鋼板のエッジ処理(面取り)としてC面取りではなく、R面取りを求めた(図2)*1

*1 ワークの角部に対する加工処理を図面で指示する際、「R10」のように半径(R)の値で指示するのがR面取り、「C」で指示するのがC面取りで、直交する面の角の場合には各面に対して45°の角度でつながる平面で面取りする。

図1 エッジ処理機械「Edgenein」
図1 エッジ処理機械「Edgenein」
板厚1.6~36mmの鋼板のバリ取り、C面取り、R面取りを効率的に実施できる。既存事業の中で知ったユーザーの困りごとを解決するため、自社技術を生かしながら開発した。 (出所:山科精器)
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図2 「Edgneine」で加工したR面取り
図2 「Edgneine」で加工したR面取り
写真は板厚9mmの鋼板を加工したもの。エッジ部を工具に押し当ててながら周回させるだけで加工が完了する。(出所:山科精器)
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 従来、造船の現場では鋼板のエッジ処理をグラインダーによる手作業で行っていた。そのため、C面取りならともかく、R面取りでは作業負荷が大きく、効率が悪い。「何とかならないか」という声が出ていた。

 この状況を知った同社の技術者は、エッジ処理を簡単に行える機械の開発に取り組んだ。そして2011年2月、卓上R面取り機の開発に成功し、同年5月に販売を開始した。作業台の上にワークを載せ、回転する専用工具に側面を押し当てるだけでエッジ処理できる。既に100数十台を販売し「国内の造船所のほとんどで使われている」(同社)という。

 卓上R面取り機では、切断面の外形(側面)にローラーが接することでRサイズを均一化でき、主軸が上下に動いて常に底面に接しながら加工するため、鋼板のそりの影響も受けにくい。ワークとなる鋼板は作業台の上側に配置された送り装置が一定速度で動かすため、作業者は手を添えるだけで済み、切削条件のばらつきも低減できる。「作業効率はハンドツールの3倍以上」(同社)という。

 展示会に出展するなどの周知活動を進める中、造船業界だけでなく幅広い業界で求められていることが分かり、新たなニーズも明らかになってきた。それが「もっと薄い板に対応できないか」というものだ。従来の機械は造船所で使われる鋼板を想定していたため、最も薄くても9mmまでしか対応できなかった。

 そうして生まれたのが「Edgenein」である。最薄で1.6mm厚のワークまで加工できるようにし、ワークの内径加工機能も標準で装備した。設計には女性の技術者も加わり、女性でも扱いやすいようにしている。