スチールラジアルタイヤの内部にあって強度を高めるスチールコードを「国内外のほとんどのタイヤメーカーに供給している」のがトクセン工業だ(図1)。他にもピストンリング用の素材となる異形断面の線材、半導体業界向けにはシリコンのインゴットをスライスするのに使うワイヤソー、あるいは魚釣り用具のメーカー向けには釣り針用の鋼材と、金属を細く伸ばした製品を多様な顧客に供給している。

図1 トクセン工業の製品
図1 トクセン工業の製品
ピストンリングやタイヤコードのメーカーなどに金属線材料を供給する(a)。さまざまな断面の線材(異形断面)を得意としている(b)。 (出所:トクセン工業)
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 その線材に対する要求は年々「より細くて軽いもの」に移りつつある。当然「強く、かつ柔軟」という条件も維持しなければならない。これを実現するために、同社は線を細くする伸線加工技術に加え、線の断面を長方形や突起のある形状などにする異形断面加工技術、線をより合わせる撚り線加工技術、めっきなどの表面処理技術をそろえている。例えば伸線加工技術であれば、ピアノ線を最小で直径9μmまで細くすることが可能で、もっと細くするための技術開発にも取り組んでいる。

 しかし、同社取締役社長の金井宏彰氏によれば、同社の強みは自社内での技術開発だけではない(図2)。同氏は「顧客の課題全てを解決するのに重要なのは、材料メーカーと共同でより良い材料を実現すること」と語る。

図2 トクセン工業取締役社長の金井宏彰氏
図2 トクセン工業取締役社長の金井宏彰氏
「加工技術の開発と材料開発は表裏一体の関係」と語る。