半導体デバイスの結晶成長や金属薄膜の形成は真空状態が前提─。そんな常識を覆す製造法「ミストCVD法」で、酸化物半導体の製造や金属薄膜の形成に力を入れるのが、京都大学発のベンチャー企業FLOSFIA(フロスフィア、本社・京都市)である。真空プロセスが必要になる、半導体を成膜する「MOCVD法」や金属薄膜を形成する「スパッタ法」とは一線を画す。

 ミストCVD法では、原料の入った溶液を超音波振動で「霧状」にして基板に吹き付け、基板上に薄膜を形成する。このとき、大気圧の状態で成膜できるので、真空にする必要がない。真空にする装備を省けるので、製造装置を安価にしやすく、製造コストを削減できる。プロセス温度も従来法よりも低い。加えて、これまで作るのが難しかった金属酸化物や、金属薄膜の形成が困難だった材料の表面や微細な凹凸構造に対してメッキできるのも特徴である。

 FLOSFIAのミストCVD法は、京都大学 大学院 工学研究科 光・電子理工学教育研究センター 教授の藤田静雄氏らのグループの成果が基になっている。藤田氏らは2005年ごろ、太陽電池向け透明電極に利用する酸化亜鉛(ZnO)を形成するためにミストCVD法の研究に本格的に取り組み始めた。それ以来、ミストCVD法を利用したさまざまな研究を行ってきた。

 こうした研究の一連の成果を事業化するために、京大の教員や研究員、学生などが2011年にFLOSFIAの前身となる「ROCA(ロカ)」を立ち上げた。当時は、ミストCVD法で作る汚水処理用のろ過膜を事業にしていたことが社名の由来になっている。