これまで実験室レベルから脱することができなかった、マイクロ波製造技術がいよいよ実用化される。透明電極に利用する金属ナノワイヤーや、電子部品の原料になる金属ナノ粒子の量産が2018年にも始まる見込み。さらに、これまで作れなかった合金をマイクロ波で作れる時代が到来する。

 触媒などの特定の分子にマイクロ波によって直接エネルギーを与えて、化学反応を起こすのが「マイクロ波製造技術」である(図1)。物質全体に熱を伝える従来法に比べて、エネルギー消費量を約1/3に、製造設備の敷地面積を約1/5に削減できるとされる。これまで実現が難しかった品質の高いナノ材料も製造できる。さらに、実現不可能とされた合金すら作れることから、「現代の錬金術」として注目を集める。

図1 マイクロ波を使って材料品質や生産性を高める
図1 マイクロ波を使って材料品質や生産性を高める
マイクロ波化学は、特定の分子にマイクロ波によって直接エネルギーを与えて、化学反応を起こす「マイクロ波製造技術」に取り組んでいる。従来方法(加熱)に比べて、品質の高い材料を製造したり、生産性を高めたりできる。マイクロ波発生器には主にマグネトロンを利用しているが、将来はGaNといった半導体デバイスも利用する予定である。(図:マイクロ波化学の資料を基に本誌が作成)
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 利点が多いマイクロ波製造技術だが、長らく「実験室レベル」にとどまっていた。ところが、この状況が大きく変わった。生産能力のスケールアップが進み、年間1000t規模の工場が稼働を始めるまでになった。2020年代には、年間生産量が数万tを超えるような大型製造設備の稼働が始まる見込みだ。

 そんなマイクロ波製造技術の工業化で先行するのが、ベンチャー企業のマイクロ波化学(大阪市)である。利用する原材料に応じてマイクロ波の周波数や温度などを変えた「レシピ」の他、マイクロ波に適した触媒、製造装置やその管理システムなどを一括で設計・開発することで、スケールアップを可能にした。大阪大学大学院 工学研究科 特任准教授で、同社 取締役CSOの塚原保徳氏の研究成果を基にしている。