温室効果がある二酸化炭素を削減しながらエネルギー源や材料を製造できるとあって、「人工光合成技術」の研究開発が活発である。その結果、同技術は大きく進展。実用化への道を着実に歩み始めた。大規模プラントに向けた研究開発や実証住宅の稼働が始まる。

 太陽光を使い、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から人為的に有機物や無機物を作る「人工光合成技術」(図1)。植物の光合成では糖を生成するのに対して、人工光合成ではエネルギー源や材料になる有機物を作るのが一般的である。

図1 光合成を模倣して有機物や無機物を生成
図1 光合成を模倣して有機物や無機物を生成
植物の光合成では、太陽光を使い、水と二酸化炭素から糖を生成し、その副産物として酸素を排出する。一方、光合成を模した「人工光合成」では、ギ酸やメタン、オレフィンといった有機物を生み出す。二酸化炭素を利用せずに、過酸化水素や次亜塩素酸といった、工業材料として価値が高い材料の生成を目指す研究も進んでいる。
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 人工光合成といえば、以前は化学分野の研究者や研究組織、メーカーなどに限られてきた。それが変わったのが2012年ごろ。環境負荷低減に対する需要の高まりから、エレクトロニクス分野の研究者やメーカーなどが加わり、研究開発が活発になった。とりわけ、「半導体分野の研究者が増えた」(複数の化学分野の人工光合成研究者)。人工光合成技術において、水を酸化させる役割を担う光電極に、半導体を利用できるからである。人工光合成を冠した研究施設や「国プロ」が日本に登場したのもこのころだ。

 その結果、実用的な成果が得られつつある。例えば、有機物を高いスループットで長期間生成できる「不死身」の新触媒や、安価な塗布法で作れる高効率な光触媒シートなどだ。これらを活用することで、大量の水素と有機物を製造する「人工光合成プラント」を実現しようと動きが出ている。さらに、住宅で必要な電力の一部を人工光合成で賄う「人工光合成ハウス」の実証実験も始まった。バクテリアを利用した人工光合成技術も登場した注1)