微小な単位で材料を変更できる3Dプリンティング

 3Dプリンティング(Additive Manufacturing:AM)は、これまでの成形・加工技術で造った部品や、それらを組み合わせて接合するマルチマテリアル化とは異なる、全く新しい部品を実現できる可能性を秘めている。3Dプリンティングにはさまざまな手法が存在するが、共通するのが材料を少しずつ供給し、積み上げていくということ。この供給時に材料を変更すれば、非常に細かな単位でのマルチマテリアル化が可能になるのだ。

 この微小な単位を「ボクセル」と呼ぶ(図A)。2D画像を構成する要素である「ピクセル」の3D版だ。近年、3Dプリンティングではボクセル単位で物性などを変化させようという取り組みが盛んで、3Dプリンターの装置メーカーが造形装置の機能強化を進めているほか、ボクセル単位での属性情報を指定可能なデータフォーマットの提案などが行われている。

図A ボクセルによる3Dモデルの表現のイメージ
図A ボクセルによる3Dモデルの表現のイメージ
ボクセルと呼ぶ単位立体形状(図では立方体)を積み上げることで、3Dモデルを表現する。表面だけでなく、内部の構造も定義することか可能だ。各ボクセルに、材料や色などの属性情報を持たせることもできる。 (画像:富士ゼロックス)
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 ただし、理想的にはボクセル単位での材料変更を目指すものの、現時点で実用化されている3Dプリンターでは限界があるのも事実だ。現在、マルチマテリアル化という点でどのような3Dプリンティング技術が実用化されているのかを見てみよう。

材料を混合するデジタルマテリアル

 マルチマテリアル化を実現する3Dプリンティングとして最もイメージしやすいのが、インクジェット技術を使う手法だろう。紙などの2D媒体に印刷するフルカラー・インクジェット・プリンターのように、複数の異なる材料を吐出するノズルを用意すればマルチマテリアル化を実現できる。

 例えば、米国とイスラエルに本社を置くStratasys社は現在、材料押出法と材料噴射法の3Dプリンターをラインアップする。これらのうち、インクジェット技術を使用するのは材料噴射法で、光硬化性樹脂を選択的に吐出し、紫外線ランプを当てて1層ずつ硬化させていく。

 造形方法の制約から基本的には光硬化性樹脂ではあるが、例えばゴムライクな樹脂とABSライクな樹脂といったように、複数の異なる材料を組み合わせて1つの部品として造形できる(図B)。別々に造形してから組み立てるのは不可能なような配置も可能だ。

図B 「Stratasys J750」による造形サンプル
図B 「Stratasys J750」による造形サンプル
複数の造形ヘッドから異なる材料を吐出できるため、立体モデルの場所に応じて材料を変えることができる。 (写真:Stratasys社)
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 さらに、同社製3Dプリンターの上位機種では、同じ位置に複数の異なる材料を吐出して混ぜ合わせる機能も備える。強度が高い材料と耐熱性が高い材料を混ぜ合わせることで、両方の物性を併せ持った材料にできる。同社はこうして実現した材料を「デジタルマテリアル」と呼ぶ。現時点では、ある一定の容積を持つエリア単位での指定となるが、原理的にはインクジェットノズルから吐出する液滴単位での合成が可能になる。