空前の好景気に沸く半導体業界だが、製造技術の進化は停滞し将来展望を見失っていた。ごく最近になって、10年以上も期待されていたEUVリソグラフィーの量産化に現実味が出てきたことで、各半導体メーカーが、一斉に微細化のロードマップを更新した。ムーアの法則が少なくとも今後10数年、“1.4nm世代”まで続くとする見方も出てきた。

 半導体業界はバブル時代を超える空前の好景気に沸いている。「データセンターでのSSD(Solid State Drive)によるHDD置き換え需要が非常に強く、メモリーの供給が需要に対して圧倒的に足りていない」(野村證券 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクターの和田木哲哉氏)ことや、IoT向け200mm製造装置の更新や新規導入、中国で半導体工場の新設ラッシュなどが起こっているからだ。工場建設に数兆円を投資している半導体メーカーも少なくない。

 その勢いにのってか、ファウンドリーと呼ばれる半導体製造受託企業各社はここにきて、次々に“7nm世代”やそれ以降のプロセス技術を実用化するロードマップを発表した(図1)。特に韓国Samsung Electronics社と台湾TSMCは2017年5~7月にこのロードマップをさらに更新した。

図1 TSMCやSamsung社はEUV導入を1年前倒し
図1 TSMCやSamsung社はEUV導入を1年前倒し
2017年6~7月に出揃った半導体製造メーカーやファウンドリーの10nm世代以降のロードマップを示した。TSMCやSamsung社は2016年末時点の計画に対して、EUV導入予定時期を約1年前倒しした。最初にリスク(少量)生産する場合の量産開始時期と量産の継続期間は本誌推定。
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 当初の発表では、7nm世代でも当面はこれまでのArF液浸と呼ばれる光リソグラフィー技術を利用し、2019年以降に極端紫外線(EUV)リソグラフィー技術を導入する計画だった。ところが、ロードマップの更新版ではEUVの導入を約1年前倒しした。

ArF液浸=アルゴン(Ar)とフッ素(F)を希ガスに用いてレーザー発振させるエキシマレーザーの出力電磁波(波長193nmの紫外線)を利用したフォトリソグラフィー技術の1つ。ニコンが開発した。光学系の末端とウエハーの間に屈折率が高い液体(一般的には水、有効屈折率1.44)を挟むことで「ArF液浸(ArF immersion:ArF-i)」または「193nm-i」と呼ばれる。この紫外線の波長は193nmだが、水を介すことなどで実質的に45nm前後の解像度が得られる。液浸を使わないArFは90n~65nm世代。ArF液浸は45nm世代前後から導入された。
EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)=波長13.5nmの電磁波。紫外線とあるが実際には軟X線である。スズ(Sn)の液滴をレーザー光で照射して高温プラズマ状態にすることなどで得られる。45nm世代での半導体製造プロセスへの導入を目指して2000年代初めから開発されていたが、EUVの発生源(光源)の出力が高まらず、いまだ実用化されていない。