車載ソフトウエアを巡る競争がさまざまな分野で同時に起きている。 ソフト基盤の標準化を巡る主導権争いや、自動運転の性能を決めるソフト開発競争などだ。 背景には、クルマの付加価値がハードからソフトに急速にシフトしている現実がある。 車載ソフトで主導権を握ることが、自動車メーカーの命運を決める。

 「我々は米国で発売する2018年型カムリの車載情報システムに、Linux基盤のAGL(Automotive Grade Linux)を採用する」―。2017年5月末に開催されたLinux関連のイベントでトヨタ自動車のコネクティッド統括部コネクティッド戦略企画グループ長の村田賢一氏はこう宣言した。トヨタが車載情報システムのソフトウエア基盤について公言するのは異例である。カムリに続き、多くのトヨタ車とレクサスブランドにAGLを展開するという(図1)。

図1 トヨタが情報システムのプラットフォームにLinuxベースの「AGL」を採用
図1 トヨタが情報システムのプラットフォームにLinuxベースの「AGL」を採用
トヨタは2017年夏に北米で発売する2018年型「カムリ」の車載情報システムに、「AGL(Automotive Grade Linux)」を採用する。カムリに続き、多くのトヨタ車やレクサスブランドにも展開する。2017年5月に開催された「Automotive Linux Summit 2017」で発表した。本誌が撮影。
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 発表の狙いは、IT業界の巨人である米Google社へのけん制だ。車載情報システムのソフト基盤では、Google社の「Android」が存在感を高めている。ソフト基盤で業界標準を勝ち取った企業がその後の主導権を握ることは、パソコンやスマートフォンの世界では常識である。自動車も例外ではない。車載情報システムはクルマを外部と接続する「口」であり、心臓部である車両制御系ともつながっている。そこを他社に牛耳られることは、トヨタとしては何としても避けたい。

 トヨタはAGLの採用をアピールすることで仲間集めを狙う。AGLには現在、日本の自動車メーカーを中心に10社が参画しているが、量産車への採用実績は今回のカムリが初めてである。トヨタは自らが旗振り役となって反Google連合の形成を目指す。AGLの普及を目指すThe Linux FoundationのExecutive DirectorであるDan Cauchy氏は「トヨタは、自分たちがソフトビジネスをやっていることをよく理解している」と話す。