コンロッドの代わりに3本のリンクを配置する日産の可変圧縮比技術。圧縮比を連続的に変えることに加えて、振動や摩擦損失を大きく減らせる構造にした。生産部門と密に連携して小型化につなげ、圧縮比のばらつきを厳密に管理する。日立オートモティブのアクチュエーターは、開発途中で構造を大胆に見直して小さくした。
「全く新しい機構で、開発中に試験した結果が(設計通りに動いた)正常値なのか、(設計の不備による)異常値なのかすら分からない状態だった」―。
日産自動車が量産する複リンク機構の可変圧縮比(VCR)技術。量産開発を率いるパワートレイン主管の木賀新一氏は、暗中模索の開発だったと振り返る(図1)。
試作品の数は、通常の2倍以上にのぼった。適合にかかる工数は同3倍以上に達する。「圧縮比が変わると、異なるエンジンを造るのと同じ」と言えるからだ。試作したエンジンを実車に搭載して走らせた距離は、「地球何周分だろうか」とつぶやくほど。
過去の経験を生かしにくく、問題が起きるたびに「何が原因か分からない」と頭を抱えた。それでもFTA(故障の木解析)を愚直に繰り返して原因を一つひとつ見つけ、対策してきた。20年以上にわたってあきらめずに開発を続けた、日産の執念の産物がVCRエンジンである(表)。