2017年1月、トヨタ自動車は元町工場に高級車の専用生産ラインを稼働させた(図1)。クーペモデルの「レクサスLC500」とハイブリッド車「同h」を造る。共に1300万円を超える高額なクルマだ。新しい生産ラインの特徴は、急がずに丁寧に作業し、この価格に見合った高品質を造り込むことである。

図1 高級車専用の生産ライン
図1 高級車専用の生産ライン
約20分のタクトタイムをかけて品質を造り込む。
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 事実、新しい生産ラインのタクトタイムは19.1分1)。大量生産するクルマのタクトタイムは1分弱だから、新しい生産ラインは19倍以上の長い時間をかけ、品質を重視しながらクルマを組み上げていくわけだ。1日当たりの生産能力はわずか49台。これを169人の作業者で造り込んでいくのである。1人の作業者が数十の作業を担っているとみられる。

 新しい生産ラインで高品質を満たす鍵を握るのは「人」だ。中でも、ここには8人の「匠」がいる。プレス、ボディー、成形、塗装、組み立て(2人)、検査、マシニング(機械加工)の各分野の技術やノウハウを知り尽くした工長クラスの「レクサス技能士」である(図2)。豊富な経験と品質に対する高い眼力を備えた彼らがにらみを利かせ、新しい生産ラインの製造品質を高い水準に保っている。レクサス技能士は、自分が担当する分野で求められる全ての種類の作業をこなせることはもちろん、若手など他の作業者に指導できる実力を持つ。

図2 8人の「レクサス技能士」
図2 8人の「レクサス技能士」
生産ラインにおける高品質実現の要。
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 新しい生産ラインの面積は約1万m2。一目で分かる特徴は、明るく広々とした作業空間になっていることだ。天井も壁も床も塗装の色を白に統一し、大きめの採光窓を設けるなどして明るくしている。一方、広々とした作業空間は、空調のダクトや電装品の配線などの設置を天井部分からなくしたことが効いている。こうした明るく見通しの良い作業空間にしたことも、高品質の維持に貢献している。