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 子供のお弁当の定番のおかずであるミニハンバーグ。その生産を今、ロボットが支えている。

 冷凍食品最大手のニチレイフーズは、同社の家庭向け主力商品であるミニハンバーグの生産にパラレルリンク型ロボット12台を導入した。55億円を投じて千葉県船橋市に「船橋第二工場」を建設し、ミニハンバーグ生産ラインにファナック製の「M-2iA/3SL」を設置。同工場が稼働を開始した2014年2月から、これらのロボットがバラの状態のミニハンバーグを毎分1000個強ものスピードでピッキングし、日夜自動でトレー詰め作業をこなしている。

 人手でハンバーグのトレー詰めを行っていた従来と比べて、4割弱の人員で包装工程を操業できるようになり、生産の効率化を実現。併せて、商品中に異物が混入するリスクも減らし、食品生産としての安全性も従来以上に高めた。食品分野ならではの要件である衛生状態確保のため、食品と接する部分のハンドを一定時間ごとに自動交換する仕組みも独自に構築した。今後はミニハンバーグだけでなく、他の主力商品の生産工程にも適用を広げる検討を進める。

包装前工程への導入は冷食業界初

導入したロボットの稼働の様子
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導入したロボットの稼働の様子
冷凍ハンバーグを把持している。

 食品分野は、電機・自動車分野に次ぐ今後のロボット市場の成長を支える新規用途として期待されている分野の1つである。これまで食品分野でも、”裸”の食品をフィルムや袋などで包装した後のパッケージの状態であれば、段ボール詰めやその後のパレタイジングなどにおいて、既にロボットは活用されている。

 ニチレイフーズも例外でなく、これまでも全国8カ所の直営工場において、段ボール詰めやパレタイジングにロボットを活用してきた。今回、同社はそうしたパッケージ後の工程ではく、裸の食品を直接ピッキングする工程に、同社として初めてロボットを導入した。ロボットのエンドエフェクタ(ハンド)が、消費者が口に入れる食品に直接接触するため、厳しい衛生管理が求められる工程だ。「包装前の裸の状態の食品をロボットが直接扱うのは、冷食業界では恐らく当社が初めてだろう」(導入を主導した同社 技術戦略部 エンジニアリンググループ グループリーダーの横山健二氏)。

将来のノウハウ蓄積に向けて

 ニチレイフーズが、これまで前例のなかったパッケージ前の食品生産工程にロボットを導入した理由は主に2つある。1つは将来の人手不足への備え、もう1つは品質管理の徹底である。

 前者については、少子化で将来、工場で働く従業員を確保しづらくなることを見据えてのこと。ハンバーグ生産では、豚肉やタマネギなどの原材料を検査したり、加工したりといった工程は商品の付加価値を高める上で重要で、人間の作業員を手厚く配置しているが、トレーに詰めるためのピッキング作業は、商品の価値には直接結び付きにくい。このため、できるだけロボットで自動化し、省力化したいとの思いがあった。

 後者の品質管理徹底については、ピッキングおよびトレー詰め作業に人間が一切介在しないようにすることで、毛髪などの異物混入リスクを低減できる。従来、人間が作業していた際も、生産工程に立ち入る前に粘着ローラーで作業着の表面の異物を入念に除去し、エアシャワーを通るなど、対策は何重にも徹底していたが、ロボットであれば当該工程でのリスクを根本からなくせる。

 同社は原材料のトレーサビリティー管理や使用期限管理、作業員への配合の指示などを行う生産管理システム「PAS(production assistance system)」を自社開発し、全国の工場に配備。食の安全性確保、品質管理徹底に努めてきたが、ロボット導入はそれと並ぶ品質管理徹底の柱といえる。

 12台ものロボットの導入は多額の投資であることもあり、「必ずしもラインの人員を減らせただけで投資の元が取れるとは言い難いが、今後に向けたロボットの活用ノウハウ蓄積の狙いもあり、手付かずだったパッケージ前工程での導入にあえて挑戦した」(横山氏)。

関西工場から生産を移管

 ニチレイフーズの場合、基本的に特定品種の商品は単一の工場で集中生産し、それを全国に出荷する方針を取っている。今回、ロボットを導入したミニハンバーグは、以前は大阪府高槻市にある「関西工場」で生産していた。

 ただし、弁当用おかずのような家庭向け冷凍食品の国内最大の消費地は首都圏。最大の市場がある地域の生産能力を拡充した方が物流費を抑えられることもあり、船橋第二工場を新規に立ち上げ、関西工場から生産を移管することとなった(図1)。同社にとって実に20年ぶりの新工場建設だ。2013年2月に建設計画が正式決定した後、わずか1年足らずで稼働にこぎつけた(図2)。

図1 ミニハンバーグのラインを一新し関西工場から移管
図1 ミニハンバーグのラインを一新し関西工場から移管
主力商品である弁当向けの冷凍ミニハンバーグは従来、関西工場で生産していたが、商品をリニューアルし、生産ラインを一新。ロボットを導入し、船橋第二工場に移管した。図はニチレイフーズの直営工場を示した。
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図2 建設決定からわずか1年で稼働
図2 建設決定からわずか1年で稼働
2013年初頭に船橋第二工場の建設が正式決定した後、わずか1年で稼働にこぎ着けた。
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 ミニハンバーグ生産の移管に当たって、関西工場で用いていた生産設備は一切持ち込んでいない。船橋第二工場のラインは全く新規に構築した。移管に当たって、実はミニハンバーグは商品リニューアルも施した。同社のミニハンバーグは1968年に発売を開始しており、今年で48年目の超ロングセラー商品だが、今回の工場移管で製法などを一新。ロボット導入の対象工程だけでなく、ライン全体をゼロから見直し再設計した。

なぜハンバーグなのか

 ニチレイフーズは家庭向け冷凍食品において、ミニハンバーグ以外にも唐揚げ、シュウマイなど多様な商品を手掛けている。船橋第二工場でもミニハンバーグ以外に、シュウマイ、一口サイズのとんかつを生産している。そうした中、今回、ロボットでの自動化についてミニハンバーグに白羽の矢が立ったのは、同社が扱う家庭向け主力商品の中では、ミニハンバーグが最もロボットでピッキングしやすかったからだ。