前編の記事:ロボットベンチャーの巨額資金調達に新手法

本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 コンバーティブル・エクイティは、もともとはベンチャー投資が盛んな米国のシリコンバレーで生まれた資金調達手法だ。シリコンバレーでも第三者割当増資のように、バリュエーションを行って新規株式を発行する形態が主体ではあるが、シード段階のベンチャー企業の場合、やはりバリュエーションの手間とコストが課題となる。

 そこでシリコンバレーではここ数年、バリュエーションの不要な資金調達手段として「コンバーティブル・ノート(CN)」がよく使われてきた(表2)。CNは、「note(手形)」という名が表すように負債(借金)の一種である。ベンチャー企業は当初、債券によって資金調達し、その後、将来の資金調達ラウンドなどでこの負債を株式に転換(コンバート)する。株式に転換可能(コンバーティブル)な負債という意味だ。日本でいえば、転換社債(コンバーティブル・ボンド:CB)に相当する仕組みである。

表2 ベンチャー企業向けの主な資金調達手段
表2 ベンチャー企業向けの主な資金調達手段
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 今回、GROOVE Xが利用したコンバーティブル・エクイティは、このCNから「負債の性質を取り除いたもの」(林氏)である。シリコンバレーでは、CNは負債といえどもベンチャー投資である以上、実際に償還時期に返済を求める投資家は慣例上、ほとんどいないようだ。しかし、負債であることには変わりがないため、CNを資本に近い形の契約に改良したのがコンバーティブル・エクイティである。

 日本でコンバーティブル・エクイティの利用事例が出てきたのは、米国のコンバーティブル・エクイティに相当するような投資契約を、日本の法律の下でどのように実装すればよいかの知見がまとまってきたからだ。特にそのための法律などが新しく出来た訳ではない。

 具体的には、森・濱田松本法律事務所の弁護士である増島雅和氏が、シリコンバレーの法律事務所での勤務経験を生かし、日本でコンバーティブル・エクイティを実現するための実装方法を2015年ころにまとめた。いつくかの方法があるが、今回、GROOVE Xが用いたのは、新株予約権を有償で投資家に販売する方式である(表2)。1年後など将来の資金調達ラウンドの際、投資家はこの新株予約権に基づき、例えば他の投資家より有利な条件などで新規株式を取得できる、といった投資契約である。

 コンバーティブル・エクイティは新株予約権のため、バランスシート(貸借対照表)上は資本の部に計上される。ただし、第三者割当増資と異なり、調達資金は資本金や資本準備金には組み入れない。GROOVE Xは2016年1月と今回の9月の合計2回、コンバーティブル・エクイティを利用し、合計約14億円を調達しているが、資本金はいまだ創業直後と同じ100万円のままである。