――一般向けサイトとして、読者を広げるための工夫とは。

 当初は、サイトに掲載したインタビューを取材先の先生方がFacebookやTwitterで発信してくださったことが効きました。患者に対する病気や治療の説明に、そのインタビューをお使いいただくケースもありました。最初はアポ一つ取るのにもすごく苦労しましたが、徐々に先生方の信頼を得られるようになってきた。取材先からの信頼を得ることが、読者を増やすことにつながってきたと思います。

 最近は、SEO(検索エンジン最適化)の貢献も大きいですね。Googleなどの検索で、上位に表示されるコンテンツがかなり増えてきました。とはいえ、SEOだけに比重を置いてコンテンツを作ってしまうと、我々が目指すものとはまったく別物になってしまいます。

 SEOが重要なのはむしろ、一般の人が医療や病気についてどういう疑問や悩みを持っているのか、そのありのままを反映するという意味においてです。読者がどんなキーワードを入力して、医療や自分の病気のことを調べているのか。それを知ることは私自身、すごく勉強になります。

 しばらく前に、糖尿病と関連する検索キーワードを調べたことがありました。そうすると、「糖尿病 ラーメン」で検索している人がかなり沢山いるんですね。ああ、病気のことを調べるときにはそういう切実な思いを抱えているのだと、気持ちがよく伝わってきました。

 検索キーワードが象徴するこうした読者の素朴な思いに、医療のスペシャリストの言葉で答えていく。これがまさに、我々の事業コンセプトに他なりません。

――メディカルノートは、どういう年代や立場の人に最もよく読まれているのでしょうか。

 我々が想定している中心読者は、病気の診断を受けた後の人です。というのも、診断を受けた瞬間、誰もが自らのうちにトラブルを抱え込むことになるからです。重い病気であれば、その瞬間から人生が変わってしまう。その病気とずっと付き合っていかなくてはならないのですから。

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 そんな人達が直面する問題に、どのように答えていくか。このことを常に念頭に置いています。データで見ると30代~40代女性の読者が多いですが、特定の年代を対象にした情報発信をしているわけではありません。深刻な思いを抱えている人にこそ情報を届けたいですから、希少な疾患も積極的に取り上げます。10万人に1人しかいないような難病の人の思いにも応えられるメディアでありたいのです。

 ご本人が病気になったケースだけではなく、子供を持つ両親という存在も意識するようにしています。私自身が3人の子供を持つ父親なのですが、子供がひどく具合を悪くした時などは、パニックに陥るわけです。私も妻も医師なのですが、小児科医ではありません。思わず二人して「医者はどこだ、すぐに診てもらわなきゃ」と騒いだり(笑)。

 そんな時の両親のために、「子どもが吐いたとき」「子どもの機嫌が悪いとき」といった項目ごとに情報の処方箋が示されていたら、きっと役に立つだろう。そう考えて、メディカルノートでそんな情報発信をして、後に書籍にもなりました。全国の保育園に配ってくださったら、役に立つと思えるような内容ですよ。このように当事者が本当に困っていることを知り、それに答えることが私達の役割だと考えています。

 我々のサイトに載っている情報は、ともすると少し難しく映るかもしれません。かなり深い情報を載せていますから。でも、いざ自分が病気の当事者になれば、どこまでも深い情報を知りたいと願うものです。「これだけの情報を載せていても、まだ足りないのか…」。読者からいろいろな声をいただきますが、そう驚かされることは少なくありません。ご自分の病気については、医師である私よりもずっと詳しい。そう思わされる読者は多いです。

 こうした読者が抱える問題に、もっと個別化した形で応えられないか。そう考えて、2017年夏からはオンラインでの医療相談サービスを始めました。一般の人と専門医を中心とした医療従事者をオンラインでつなぐサービスです。

 医師やその関係者なら、自分が病気になった時にはツテを頼って適切な専門医にたどりつくことができます。でも、一般の人はなかなかそういう環境にはありません。インターネットという手段は、そうした差を埋める手段としても有効ではないでしょうか。