――どんな医療情報メディアにしようと考えたのですか。

 創業時からのコンセプトは、大きく3つあります。まずは、医療や病気に関して信頼できる情報を伝えること。第2は、第一線で活躍するスペシャリスト(専門家)の監修や執筆、インタビューを通じた情報発信をすること。そして第3は、親しみやすいデザインなど、情報をきちんと読者に伝えるための工夫をすることです。

 信頼できる情報を提供することが、何よりも重要であることは言うまでもありません。その上で、我々にとっては第2の点、つまりスペシャリストの力を借りることがポイントになると考えました。医療では、専門分野ごとの分化が非常に進んでいるからです。

 例えば、私は消化器内科をいくらかは学んできましたので、消化器領域のことならそれなりの記事は書けます。でも婦人科や小児科について、深い情報を書くことは難しい。自分達だけで何とかしようとするのは無理があると考えたわけです。そこで、どの分野にどのような専門家がいるかを徹底して調べ、彼らの言葉を通じた情報発信をしようと決めました。

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 問題は、それをどうやって実現していくか。とても幸運だったと思いますし、今でも大変感謝していますが、最初に我々のアドバイザーになっていただいたのが、当時、日本小児科学会会長だった五十嵐隆先生(現・国立成育医療研究センター理事長)です。「これからは医療現場からの情報発信が重要になる。インターネットならそれができる」。こういう我々の言葉に五十嵐先生に賛同していただけたことが、その後、多くの先生方の協力を得ることにつながりました。

 第3に挙げた、情報を親しみやすい形で伝える工夫は、医療従事者がどちらかと言えば苦手としていることです。これまでも医療従事者は病院や医局、学会などそれぞれの立場から、一般向けの情報発信に努めてきたとは思います。ただ、どうしても業界内でしか通じない難解な言葉、教科書的な言葉を使いがちなわけです。

 私自身もそうですが、アカデミアで研究に携わったりすると、英語での論文執筆を重視する習慣が身についてしまいます。日本語での情報発信は二の次、という発想になる。これでは、医療現場の情報を一般向けに分かりやすく伝えることはできません。我々はサイトデザインなどを含め、いかに親しみやすい情報の伝え方をするかに工夫をこらしてきました。

 医療従事者のエクスペリエンス、つまり現場での体験を伝えることも大切でしょう。医療はエビデンスを重視する世界であり、一般向けの情報提供でもエビデンスが重要なのは確かです。ただしそれだけでは無味乾燥な情報になりかねません。エクスペリエンスとは先生方それぞれが持つストーリーであり、それが伴うことで情報はより分かりやすく伝わる。(現・京都大学大学院医学研究科教授の)中山健夫先生が医療分野のコミュニケーションについてそのように指摘されていたので、我々もインタビューで先生方のストーリーを伝えていく自分達のやり方に自信を持てました。