沖山氏 他には開発中のロボットをご紹介します。AIを組み入れることで自動化が進むというイメージです。まずは血管の位置を認識して自動で採血するロボットの動画です(開発中のiKnifeのYouTube動画)

 次は、iKnifeというメスです(開発中のiKnifeのYouTube動画)。電気メスで組織を焼いた時に出るガス(煙)の成分を分析して、腫瘍細胞特異的な成分が検出されるかどうかで切除断端に悪性細胞が含まれるかを確認しようという目的で開発されています。こういう技術が発達していくと、腹腔鏡手術や手術支援ロボットにおいて、人間の5感を補うものになる可能性があります。ガス中の化学物質を検知するというのは人間の鼻がもつ機能と同じです。ほかにも、直接触らなくても超音波を用いることで組織の固さの違いが分かる触覚などをロボットに持たせて、その情報を術者に伝えることだってできるようになります。さらにはもっと違う感覚、例えば湿度や磁場、電流をセンシングして術者のゴーグルに表示することができたら、それがより安全で効果の高い術式になるかもしれません。

 このような技術は、臨床現場だけでなく医学教育にも有効です。マイクロソフト社はMR (mixed reality) のためのデバイスとしてHoloLensを開発しています(開発中のHoloLensのYouTube動画)。これによって解剖学を3Dで見ることだけでなく、3D表示された物体に触れることでその映像を動かすなど、仮想世界と実世界間で相互作用を起こすことができます。大学教育だけでなく外科医が新しい術式を習得する上で有用なプロセスになるかもしれません。HoloLensそのものは映像投影とカメラを組み合わせたデバイスに過ぎませんが、現実世界のデータをもとに機械学習を行うことで、より高度なインタラクションが望めるようになるでしょう。

 このように、AIが新たな可能性を医療現場にもたらす可能性は多いにあります。AIにはAIの得意分野があり、それを活かすかどうかは人間の医師次第です。一方で、患者さんに納得感をもたらすという意味では、例え同じ内容だったとしても生身の医師から説明を聞きたいという患者は多いのではないでしょうか。