例えば東京ゲートブリッジは毎秒2800件ものデータをとり続けています。ひずみとか振動とか。ところが橋の定期点検は5年に1回ですから、そうなると毎秒2800件を集めることをどう位置付けるのか。地震があったときに異常がぱっと分かるのはいいのですが。
戸川: 素人考えですが、たぶん橋のためだけに、そういう取り組みをしようとすると採算が合わない。でも、国全体とか産業全体で、データから得た何かを相互に融通するといった発想をすれば、成立するかもしれません。極端な話、医療業界に渡すとすごく重宝される大事なデータが橋で計測できるとか。
新しい取り組みを始めるにあたっては、わくわくしてやりたい。このデータがほかでも使えそうだ、と発想してみる。このデータは自分たちだけで一応取っている、でも大して使われていない、こうなったらやる気は出ない。
橋本: データの相互融通は課題の1つでしょう。医療については可能性がすごくあると思います。ただ、データは標準化されていないと使えないし、医療の場合、個人情報保護の兼ね合いがあります。
ニーズはあるので同じグループの病院の中でしたらデータの共有は始まっていますし、地域の介護や福祉の組織と連携して、地域の情報を共有化し、患者さんや高齢者をきちんとフォローしていこうといった動きもあります。
野中: 橋のデータを医療に、というのは荒唐無稽かもしれませんが、ビッグデータの面白さはそういうところにありますよね。全然関係ないように見えるものが、統計的に見ると結びついている。でも、理由は分からない、といったところが。
戸川: 個人としても異文化に接すると、こちらと共通しているとか、あれ、違うなとか、学びがある。データ活用も同じで、私はとにかくこの橋でやる、でも1人で進めるとくじけそうだから、ほかの人も一緒にやりましょう。こういう勢い、ノリがないと、新しいことはなかなかうまくいかない。オープンイノベーションとはそういうことでしょう。
ゲノム情報サービスの実態
狩集: 日々のデータではないですが、簡易なツールで自分の遺伝子情報を調べられて、その結果を渡すと色々分析してくれて、あなたはこの病気にかかりやすいと知らせてくれるサービスが結構あります。「あなたはこういう生活をしてください」みたいなアプリが付いてきて生活習慣まで改善できるなら、数万円払ってもいいかなと思ったりします。そうではなく結果だけ見せられても、ああ、俺はこうなのか、で終わってしまう。
橋本: 今提供されている消費者向け遺伝子検査サービスについて言うと、深刻な遺伝性疾患については調べてはいないケースが多い。そこに異常があったとしたら病気の危険があることが明らかないくつかの遺伝子については調べないわけです。医療行為にも当たるし、倫理的な問題もある。遺伝性疾患の危険性が分かったとすると、本人だけではなく、ご家族も含めた重大事になってきますから。結果を伝える際のカウンセリング体制が不十分な会社も少なくありません。
重要な遺伝子を除外して調べているなら何を見ているかと言うと、糖尿病にかかるリスクが少し上がりますよ、といったところまでです。そのリスクと、たばこを吸っているリスクとどっちが高いのかと言い出したら、そもそもなぜ遺伝子を調べるのか、という話になりますね。
狩集: 集めたデータを蓄積して、そこからデータベースを作っているのかと見ていたのですが、そうでもないようですね。