実現への課題

新技術1 自動運転
新技術1 自動運転
進化する技術をどう使いこなすか
自動運転機能を搭載した日産自動車の新型ミニバン「セレナ」。先行車と一定の車間距離を保ちながら自動で追従している様子。2016年7月開催の試乗会において撮影

寺山: 進化する技術をどう使いこなすか。やれるとしてもどこまで応用してよいのか。その2つの課題がある。まず前者についてどうですか。

狩集: 自動運転を例にとりますか。いくつかレベルがありますが、人が一切何もしなくてよいという完全自動運転は実現できるのか。技術的にはやれないことはないです。

 けれども量産車でやりますか、どこの場所でやるのですか、という点が残っている。道路などインフラまで一緒につくれれば、自動運転高速バスとか、そういうものはできるでしょう。

野中: 物流用途などが一番進めやすいでしょうね。

狩集: まさにそうで今ある高速道路を物流専用にしてしまい、道路に仕掛けを入れれば完全自動運転はできる。そうしないで首都高はそのままでそこに自動運転で車を走らせようといったらこれはなかなか難しい。新興国でまったく新しい幹線高速道路をつくります、そこは自動運転にします、と決めればできるでしょう。つまり、技術そのものというより、技術とインフラの関わり方次第で実用化は左右されるわけです。

野中: 自動運転専用レーンをつくる、そう決まれば土木の側から言えばもちろんつくれます。こういう電子機器を埋め込んでほしいと言われればそれもできる。

狩集: 雨の日でも車に付いたカメラから見つけやすい白線にしてほしいとか。

野中: 特殊な塗料を入れて車が積んでいるセンサーに反応しやすくするとか、それもできるでしょう。明確な課題を与えられれば、それを達成する日本企業の力はありますから。ただ難しいのは、インフラはどうしても後追いになることです。自動運転と並行して電気自動車の時代になっていくと言われますが、これも充電ステーションがどのぐらいあるかという話になる。

戸川: インフラの整備に加え、法規制の見直しが必要です。今の法律では、運転する人がいない無人の自動車や航空機は認められないので。ただ、むしろ利用者の気持ちがどうなるか、そこが大きいのではないかと思います。

 先日ある会合で航空機の自動運転の話が出たとき、出席していたある航空会社の幹部が「技術的にはできます。ただし皆さん、パイロットが乗っていない飛行機に乗りたいですか」と問いかけていました。

橋本: たまたまタクシー会社の経営者と話す機会があったのですが、自動運転になってもだれか1人は乗せて、お客さんの相手をさせる、と言っていました。コンシェルジェサービスのようになるのかもしれません。今までのビジネスをどう組み替えていくか、そこに技術の影響が出てくるでしょうね。

戸川: 自動運転になったら保険をどうするのかという話もそうですね。テクノロジーの導入でメリットを感じる人はいるけれども、あるマーケットの商売がなくなるトレードオフがある。ただ、抵抗しようとしても、進める人がいるわけだから。

狩集: ビジネスを組み替える話を保険を例にして続けると、自動運転をつかさどっているシステムをだれが作ったのかによって保険料が変わったりするのではないかと考えます。自動運転といったとき、センサーとそこから得られたデータをどう分析するかというコンピューターソフトウエアが大事になり、自動車部品メーカーや電機メーカーの製品によって性能に差が出てくるかもしれません。

戸川: 自動車部品メーカー、電機メーカー、そして自動車メーカー、ひょっとするとどこかのベンチャー、それぞれ保険料が違ったりするわけですね。

トレーサビリティの向上へ

狩集: そうです。薬も一緒ではないですか。飲んでいる薬が何か、どうなったかをトレースできるようになると、例えば生命保険会社が、その薬ではなくてこちらを飲むと保険料がこうなります、みたいなことになる。

橋本: 世の中のニーズからしたらそうなっていきますね。例えば製薬会社の顧客は病院ですから、そこから先どうなったか、把握できない。病院もそうです。渡した薬がどうなったか、分からないところがある。そもそも飲まずに捨てられている薬が結構あると指摘されています。薬のトレーサビリティを高め、きちんと使ったのかどうか、その成績はどうだったのか、リアルに知りたいところです。

戸川: 製薬会社も、病院の先生も嫌がるかもしれませんね。可視化というのはICTの効果の1つですが、色々見えるのは便利であり、かつ怖いことでもありますから。

狩集: 車ですと無事故保険があります。事故を起こさなかったら安くする。医療費にもそういう仕組みを付けておく。今年は病院に行きませんでしたという人は健康保険料が安くなるとか。

橋本: それは本当にあった方がいい仕組みですよね。

狩集: 今は関連データがばらばらなので、できないけれども、一元化できたら、色々なことができるようになる。そういう市町村が現れてもいいのではないか。

新技術2 ウエアラブルから インプラントへ
<b>新技術2 </b>ウエアラブルから インプラントへ
身に着けるウエアラブル機器では、心拍数などの生体情報を計測することができる。ただし医療への応用を考えた場合、技術がどれほど進んだとしても、生体情報は微細な電気信号であるため、ウエアラブル機器を使って体の外側から計測することは難しい。そこで、体の内側に埋め込む「インプラント機器」が登場する
データ利用による恩恵も増えていく
データ利用による恩恵も増えていく
無線方式のインプラント機器のイメージ。インプラント機器は、生体情報の計測に加えて、神経などを刺激し、発作を抑えるなど、人の活動を支援する役割も持つ。ただし電池寿命や信号取り出し手段の問題によって、体の内側と外側を有線で接続しているケースがある。有線接続では装着者の負荷は小さくない上、細菌などによる感染リスクもある。そこで、無線で電源を供給したり、無線で情報をやりとりしたりできるインプラント機器の開発がさまざまな機関で行われている

戸川: その前提としてデバイスがどんどんウエアラブルになってくることがありますね。ライフログ(生活の記録)を取りやすくなる。プライバシーの問題もあるでしょうけれど、データ利用による恩恵の方が大きいと思えばまだ違ってくる。やりたい人だけやるという方法もありますし。

狩集: 心拍計を付けておいて何か予兆があると、危ないから病院に行った方がいいと言ってくれるサービスができたら、着けたい人は大勢いるでしょう。

野中: 建設現場ですとすでにありますよ。倒れたり、ずっと動かなかったら現場事務所に連絡がいくとか、警報が鳴る仕組みとか。ただし、データ活用かと言われるとちょっと違う。

橋本: いろいろなところにセンサーが埋め込まれているから、いろいろなところでいろいろなデータを取って、ちゃんとそれを分析することができれば、いろいろな結果を出していける。

狩集: ただ小さい会社ですとデータをもらっても困るかもしれない。分析担当者を置けるわけではないし。中堅のIT関連企業にとってはチャンスでしょう。

戸川: 新しいビジネスチャンスになりますよね。そういうデータを使って、新しいサービスを生み出せる構想力のある人が企業側に増えてくると、テクノロジーで便利になるだけではなく、もう一段上の取り組みができる。

狩集: ポイントカードの仕組みとうまくくっついていくと、また面白いことになるだろうと。今、還元率が一律ですが、そのあたりも変えていければ。それから、オープンにできるデータをきちんと管理、収集して、ある一定の条件であれば使わせてくれるという仕組みがあるといいのですが。