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大企業はお断り

 ほとんどの大手エレクトロニクス企業は、Kickstarterを使いたいと何年も言い続けてきました。僕らの答えは常に「ノー」です。

Yancey Strickler氏<br>(ヤンシー・ストリックラー)
Yancey Strickler氏
(ヤンシー・ストリックラー)
音楽関連のジャーナリストとして「Pitchfork」「Spin」などに寄稿したほか、音楽レーベル「eMusic Selects」の設立に従事。2009年4月に共同創業者としてKickstarterを立ち上げる。(写真:加藤 康)

 「社員の個人的なプロジェクトで、Samsung やソニーではありません」と言うので、こう聞くんです。「プロジェクトの知的財産権(IP:Intellectual Property)の帰属は個人ですか、会社ですか?」と。「会社です」と言われたら、「それだと、うちを使う意味がないですね」。

 普通の人は、クリエイターに渡すのと同じやり方で、企業にお金を出したいとは思わないでしょう。僕はおかしいと思うし、そういうプロジェクトがあったら、僕らのコミュニティーや、これまで築いてきた、独立性や最先端を何よりも重視する気風をダメにする。独立したハードウエアクリエイターが、同じことを大企業がするのを気にいるとは思わないし、バッカーも同じでしょう。

 他のサービスを使うのは大歓迎です。自分たちでクラウドファンディングのサイトを立ち上げるのもいいでしょう。でも、僕らは自分たちのブランドを守りたい。Kickstarterがあるのは、個人や小さい会社、スタートアップのためであって、大企業のためではないんです。大企業には、既にお金があるわけですから。

失敗は10%未満

 研究開発と同じで、最先端のプロジェクトは常にうまくいくとは限りません。3年前、米University of Pennsylvaniaに委託して、かつてない規模でKickstarterやクラウドファンディングでの失敗の調査をしました。その結果、Kickstarterのプロジェクトのうち約束通りにものを届けられなかったのは、全体の9%しかありませんでした。10%より低かったんです。

 しかも、失敗の理由が詐欺とかお金目当ての場合は滅多になく、「思っていたより難しかった」場合がはるかに多かった。新しいアイデアのプラットフォームにしては許容範囲内に収まっていると思います。

 調査を頼んだとき、どんな結果になっても大々的に公開すると大学に約束しました。こういうデータを隠すつもりはありません。人々には、情報を知った上で決めてほしいんです。新しいアイデアを受け入れる場が重要だとみんなが思い、アイデアがうまく行かない場合があっても、社会に何らかの仕組みが必要なら、Kickstarterは今のまま引き続き成長できます。もし人々の気に障るなら、使うのをやめればいい。市場はそうやって、うまく行くものと行かないものを選り分けます。

 この事実を隠さず受け入れることは、僕らをずっと透明にしてくれる。失敗はあり得ることをおおっぴらにして、どんな場合にそうなるかを明らかにするのは正しいことだと思います。10回中9回成功は、悪くない数字です。