――2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のチーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサーという肩書きもお持ちです。
これまで縁のなかった分野の方々とお会いできるので、学ぶことが多く刺激を受けています。医療の世界では、医療費をいかに下げるかが大問題になっている。スポーツはこの問題に対して、すごくイノベーティブな解決策を与えるのではないか。そんな思いも抱くようになりました。
健康に気をつけようという呼びかけには、誰も反論しません。でもそれをなかなか実行に移せないわけです。スポーツにはそうした押し付けられている感覚がない。体を動かすことに自然に意欲的になれるという効用があるんです。
もう一つ痛感しているのは、スポーツにおけるファンエンゲージメント、つまりファンをつくるための努力の見事さです。エンターテインメントの分野にも通じる話だと思いますが、スポーツの試合やコンサートを数万人が観に来ているとして、その向こう側にいる何十万、何百万人のファンをすごく大切にしている。彼らにファンであり続けてもらうための努力を怠っていないんです。
かつて、トヨタ自動車の宣伝で「いつかはクラウン」というキャッチコピーがはやったことがありました。トヨタのファンと言える存在が、やがて同社のカスタマー(顧客)に変わっていく。こうしたファンづくりの意識が徹底しているのが、スポーツやエンターテインメントの世界です。
現在の日本企業を見ていると、この努力がどこまでできているだろうと感じることがあります。目先の顧客を得ようとするあまり、ファンを失っていないだろうかと。ファンエンゲージメントという考え方は、ひょっとすると医療の世界にも通じるのかもしれません。