――フォー・ユー・ライフケアではまさにその問題に取り組むのですね。

 言ってみれば、「医療者のリエンジニアリング」への挑戦です。医療者の働き方にもシェアリングエコノミーの考え方を取り入れ、働き方改革を促す。医療者でなければできない仕事とそうでない仕事の分担を見直すことにもつなげたいと考えています。

 役割分担を改めることは、その業界や組織のあり方を大きく変える力を持っています。長い低迷から復活した老舗旅館などの例を見てもそう。何をやったかと言えば、現場の作業分担を変えているんです。それによってサービス品質が高まり、利益体質も改善する。問われているのは、足りないものを補うために業務効率をいかに高めるかの工夫であって、医療にもそういう意味でのリエンジニアリングが必要だと思います。

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 とはいえ、この問題に対して初めから完成したサービスを提供できるとは思っていません。Salesforce時代からそうだったように、リーンスタートアップを重視します。まずは最低限の機能を実装してサービスを立ち上げ、返ってきた声をもとに改善していくやり方です。

 “Wisdom of Crowds”という言葉があるように、今はさまざまな人の集合知が力を持つ時代です。自分達が良かれと思って開発したサービスが、そのように受け止められる保証はない。より良いサービスに仕上げるために、いかに集合知を生かせるかが鍵を握ります。

 なでしこナースについては、需要者側の医療機関は、人材マッチングサービスを活用したいという意向を総じて持っています。これに応えるには供給側の規模を拡大する必要があるので、そのための提携などを検討しているところです。なでしこナースのようなサービスがきっかけとなり、70万人の潜在看護師のうち10%が復職したとすれば、7万人。現役看護師が約150万人ですから、それなりのインパクトがある数字になります。

 医師や薬剤師、介護人材も事業の対象にしていくつもりです。ただしこれらの分野で既にサービスを提供している会社と競合しようとは思っていません。大切なのはエコシステムを構築すること。さまざまなプレーヤーが存在することによって、「この用途ではこのサービスが使いやすいから、これを使おう」という選択肢を医療者に提供できることが重要だと考えています。

――「医療は儲けることを目的にすべきではないし、面倒くさいことも多い」。そう考えて、あえて医療とは距離を置いてきたそうですが。

 そもそもSalesforceを退く時には、長年お世話になったお礼とともに「これからはドウラク(道楽)を楽しみたい」という話をしたんです。長年クラウドをやってきたので、これからはその反対のことをやりたいと(笑)。

 でも、医療の世界にすごく大きな課題があるということを武藤先生から教えられた。この分野にも自分にしかできない、自分ならもっと良いやり方ができることがあるとも感じました。

 儲けを目的にするのは良くないでしょうが、事業をやる以上、ある程度は儲けなければいけません。万一儲けすぎるようなことがあれば、社会に還元すればいい。悪貨が良貨を駆逐するような事態は見たくないので、それなら自分達が良いサービスを作ろうと考えて起業したというわけです。