――有用性が期待される一方で、対面診療と比べた場合の医療としての質の低下を懸念する声もあります。

 人間の五感のうち、一部しか使えない。そんな限界が遠隔診療にあるのは確かです。良い点もあればそうでない点もあって、対面診療と遠隔診療のどちらが優れているかという一元論では語れません。外来や在宅という形が好ましいケースもあれば、遠隔診療が好ましいケースもある。その最適な組み合わせを、それぞれの患者の疾患や生活環境、経済状況などに応じた“引き出し”として提供できるかどうか。これが問われています。

 在宅医療を例に取りましょう。自宅での看取りを絶対的な善のように捉える風潮もありますが、私はそれに賛同できません。重要なのは、人生の最期を自宅で迎えることもできるという、オプションを提供することだと考えるからです。遠隔診療にも同じことが言えるのではないか。遠隔診療の方が適すると考えられる場面で、そのオプションを患者に示せるというあり方が大切なのだと思います。

 それでは、医療の一オプションとして遠隔診療が普及するためには何が必要か。医療のインフラを構成するさまざまな要素との“組み合わせ”がポイントになると私は考えています。

 医療・健康分野ではさまざまなアプリが登場していますが、広く使われているものは少ない。それはおそらく、さまざまな要素との組み合わせによって、誰もが使いたいと思うサービスに仕上げることができていないからでしょう。そういうモデルを作れる人がまだいないということです。

 遠隔診療でも、そうしたモデルをつくれるかどうかが問われます。既存の医療のインフラに遠隔診療をいかに組み込めるか、例えば電子カルテなどのシステムといかに連携させることができるか。これが、誰もが使う仕組みになれるかどうかを分けると見ています。