「東京工業大学発ベンチャー企業のつばめBHBが、世界で初めて“オンサイト型”のアンモニア合成システムの事業化を図る」――。こう発表されたのは、科学技術振興機構(JST)が2017年4月27日に東京本部内で開いた記者会見の場だった。

 JSTは「味の素とベンチャーキャピタルのユニバーサル マテリアルズ インキュベーター(UMI、本社東京)、東工大の細野秀雄教授(関連記事)の3者が、ベンチャー企業のつばめBHB(本社東京)を共同設立し、4月25日から化学産業を根底から変えるNH3(アンモニア)向け触媒利用の事業化を目指した開発を始めた」と発表したのである*1。冒頭の発言中の“オンサイト型”について、化学産業の重要な基本材料であるNH3を低温・低圧で合成できる革新的な仕組みによって、各工場内に置いた小型の合成装置でNH3を製造する新技術だと説明する。

*1 JSTが2017年4月27日に開催した記者発表では「ユニバーサル マテリアルズ インキュベーターなどが設けたUMI1号投資事業有限責任組合が53%、味の素が44%、細野教授ら数人が3%出資した」と発表した。出資総額は4億5000万円。個人としての投資では、細野教授以外の名前は公表されていない。

 ユニバーサル マテリアルズ インキュベーターは、経済産業省傘下の官民ファンドである産業革新機構(本社東京)が2015年10月5日に資本金1800万円でベンチャーキャピタル(VC)として設立した企業。そのユニバーサル マテリアルズ インキュベーターは、化学系大手企業の旭硝子や宇部興産などの8社と、2016年1月1日に投資ファンドの「UMI1号投資事業有限責任組合」を設立し、化学系新事業を興す投資活動を始めた。現在、総額100億円を運営している。

 NH3を低温・低圧で合成できる仕組みの中身は、「エレクトライド(電子化物)」と呼ばれる独自の人工物質を用いた“魔法の触媒”である。これは、“C12A7”という物質をエレクトライド化し、その一部をRu(ルテニウム)に置換することによって、細野教授の研究グループが発見したものだった。

 「ACCEL」という戦略的創造研究推進制度によって、5年間にわたってRu系C12A7の研究開発を支援してきたJST戦略研究推進部の横山壽治プログラムマネージャーに今回の技術について解説してもらった(図1)。

図1 JST戦略研究推進部の横山壽治プログラムマネージャー
図1 JST戦略研究推進部の横山壽治プログラムマネージャー