「今回の投資を基に、IoT時代に向けた独自の新規デバイス事業を推進する」――。こう語るのは、東北大学発ベンチャー企業であるPiezo Studio(本社仙台市)の代表取締役社長を務める井上憲司氏だ(図1)。

図1 Piezo Studioの井上憲司代表取締役社長
図1 Piezo Studioの井上憲司代表取締役社長

 「今回の投資」というのは、東北大学の産学連携機構や金属材料研究所などが2017年4月21日に仙台市青葉区の東北大片平キャンパスで記者会見を開き、「東北大100%子会社のベンチャーキャピタルである東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP、本社仙台市)がPiezo Studioに出資した」と発表したことを受けての発言である。THVPは第三者割当増資のかたちで、2億5000万円を同社に投資。正確には、THVPが2015年8月31日に、他の銀行などの金融機関などと共同で設立した「THVP-1号投資事業有限責任組合」が同社に事業化資金として投資している。

 今回、Piezo Studioの井上社長に新規デバイス事業への態勢づくりなど抱負を聞いた。

――東北大発ベンチャーのPiezo Studioが設立された経緯は。

 Piezo Studioは2014年12月5日に設立されたベンチャー企業です。もともとは、金属材料研究所の吉川彰教授の研究グループが2000年ごろから研究開発を加速させ、成果を上げてきたランガサイト(LaGaSiO=ランタン・ガリウム・ケイ素・酸素)系から改良して派生させた新型圧電単結晶の研究シーズが出発点です。その一連の研究成果を基に、その低価格化と性能向上にメドをつける研究開発成果が得られたことが、当社を設立した経緯です。

 LaGaSiO系結晶は高価で、性能を安定化させるのが難しいという課題がありました。このため吉川教授の研究グループは振動子向けの単結晶では、LaGaSiO系結晶のLaTaGaO(ランタン・タンタル・ガリウム・酸素)系に着目し、これを基に改善を図り、希土類元素であるLaの代わりにクラーク数が多く安価なCa(カルシウム)に、TaをNb(ニオブ)に、GaをAl(アルミニウム)とSiで部分的に置換したCaNbGaAlSiO系圧電単結晶などを開発しました(図2)。その後は、その応用製品の事業化を図り、一層の組成改良などによって、単結晶とデバイスの低価格化を図っています。このCaNbGaAlSiO系の圧電結晶の価格は、(結晶ベースで)LaGaSiO系の1/20程度に安くなると試算しています。

図2 CaNbGaAlSiO系の圧電単結晶。この単結晶からデバイス向けに最適な結晶方位などに切り出すなどの加工・成形を行う。加工・成形には、かなり高度なノウハウと技術が必要という。
図2 CaNbGaAlSiO系の圧電単結晶。この単結晶からデバイス向けに最適な結晶方位などに切り出すなどの加工・成形を行う。加工・成形には、かなり高度なノウハウと技術が必要という。
(画像提供:C&A)
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 当社の取締役も兼務する吉川教授は「金属材料研究所がこれまで長年蓄積してきた単結晶系の作製技術や性質などの評価技術を基に実現できた。つまり、東北大内に蓄えられた研究成果の知識体系を生かした事業シーズの成果である」と、解説しています。