――御手洗会長も同席した2016年12月の記者会見では、世界のメガトレンドを踏まえ、事業戦略を立てると発言されました。

 医療機器メーカーとして今後の戦略を立てる上で常に意識しなければならないのは、医療における経済的制約が非常に強くなっていること。これが底流にあるメガトレンドだと見ています。米国ではその解決策として“Value-based Care”という考え方が提唱されていますが、そうした何らかの答えを用意していく必要があります。

 これは先進国だけの問題ではない。発展途上にある国や地域を含め、全世界共通のテーマです。健康で長く生きたいというのは人間の根源的な欲求ですし、これからはその要求水準の高い人達がどんどん増えてくるわけです。いかにコストを抑えつつその要求に応えていくかが厳しく問われるでしょう。

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 そうした前提に立って、これから我々は何をすべきか。“Made for Life”がこれからも変わらない使命だと話しましたが、これを別の言葉で表現すればこういうことです。「医師が患者の診断や治療を行うために必要な情報について、それを集め、統合し、解析し、加工することで、より価値のある情報へと変換する」。そのすべてのステップをつかさどり、情報を軸に医師を総合的にサポートすることがこれからの私達の仕事になると考えています。

 そのためには、扱うことのできる情報の幅を広げなくてはなりません。これまではもっぱら画像診断を対象にしてきましたが、その周辺へと対象を広げたい。全く種類の異なるさまざまなデータを組み合わせることで、より付加価値の高い情報が得られると見ているからです。

 例えば、心臓の3D画像をバイタルサインや心電図と組み合わせて解析することで、臨床的価値のより高い情報が得られるかもしれない。画像データから、臓器の機能やその過去との差異を数値化したりするような手法も考えられます。その延長線上には当然、AI(人工知能)の活用が出てくるでしょう。

 医療経済性の課題を克服するためには、おそらくこうしたアプローチが欠かせなくなる。同時に、“情報の洪水”にさらされつつある臨床医を救い、膨大な情報に惑わされることなく正確な診断や治療を行えるよう支援する手段ともなります。

 我々はこれまでは、医用画像を撮る“機械”をつくるメーカーだったかもしれません。これからはそうではない。医師にとって本当に価値があるのは、機械ではなく“情報”です。その価値をいかに高め、臨床現場に提供できるかに軸足を置いていきます。

――そうした取り組みの要となるAIやビッグデータ解析には、医療分野の多くのプレーヤーが力を入れています。勝算はありますか。

 提供する情報の価値を高める取り組みには、我々は何年も前から着手しています。例えば、X線CTの撮影画像の後処理に関して、かつては外部のワークステーションベンダーの力を仰いでいました。2011年に(画像解析・表示ソフトウエアを手掛ける)米Vital Images社を買収したことで、これ以降は後処理を我々独自のアプリケーションとして提供できるようになっています。

 情報を収集する部分についても、その幅を広げようとしているところです。インフルエンザやジカ熱、エボラ出血熱などの迅速検査キットがその一例ですね。収集する情報の幅を広げるための製品群を必ずしもすべて自社内に持つ必要はないかもしれませんので、外部との協業も検討します。

 これまでは東芝グループの研究開発機能も生かすことができたわけですが、この部分のリソースはなくなります。そこは、社内にそうした機能を設けたり、キヤノンの力を借りたりして補えると考えています。データの収集・解析という領域ではキヤノンもさまざまなノウハウを持っており、互いの強みを持ち寄ることで良い化学反応を起こせるでしょう。

 AIについては、例えば画像診断でこの技術をどう位置付けるかについて、現場の医師の間でもまだ見解が分かれています。自分達の仕事がとって代わられることを懸念する声もあれば、診断の質を高めるために積極活用すべきだという声もある。議論の余地が多い技術であり、勝負はまだこれからです。