――AppliCareもまさにそうした思いから立ち上げたわけですね。

 AppliCareは、エスティムの活動の一環として2013年に立ち上げた企画です。医学に工学、経営、デザインなどの要素を融合し、医療の“内と外”をマッチングする。医療の課題解決に向けたアプリ開発コンテストという形で、会社の理念を具現化したのがAppliCareでした。

 ビジネスコンテストに携わった経験はそれ以前にもあったのですが、もう少し具体性のあるテーマを、と考えた。アプリは学生でも開発に手が届きやすいことに加え、健康や医療、ベンチャーとも相性がいい。いわば医療×ITを象徴する存在であり、コンテストにふさわしいと考えたんです。

 臨床現場のニーズという観点からも、アプリには大きな可能性がある。日々、診療をしている中で把握できる患者のデータにはどうしても偏りがあります。生活習慣病などでは、患者の自己申告に頼る部分も少なくありませんから、その傾向が強い。それに対して、アプリやIoT(Internet of Things)を使えば、患者の日常生活におけるデータが取れます。そうしたデータを診療にうまく生かすことができれば、非常に価値のある情報になるわけです。

 医療・健康アプリの開発コンテストは、今でこそ珍しくありません。でも当時はまだ少なかったですし、サポート企業などがついてオーサライズされた形で開催されるものはほぼ皆無でした。ならば自分達がやろうと考えて、AppliCareを立ち上げたというわけです。

――分野も大学も横断する企画。立ち上げには相当なエネルギーが必要だったと想像します。

 AppliCareの大きな力になったのは、さまざまな立場の人が趣旨に賛同し、協力してくれたことでした。東京女子医科大学や東京医科歯科大学など、他大学の学生が企画に加わってくれましたし、学生だった我々にとって非常に心強かったのは、企業や医療機関のサポートが得られたことでした。日本マイクロソフトや亀田総合病院が協力してくださり、亀田総合病院は泊りがけの見学ツアーの機会まで提供してくれました。

 成果をアプリ、そしてビジネスにつなげるという狙いも実を結んでいます。私が代表を務めた第1回AppliCare(2013年開催)で優勝した服薬管理アプリ「flixy」や、第2回で準優勝した「オストメイトなび」はその後、事業化されました。コンテスト終了後、主催者の我々が必ずしもきっちりサポートし続けられたわけではないのですが、各チームが主体的に事業として継続できる形に育ててくれたわけです。

 AppliCareでは、こうしたコンテストを数年にわたり続けることができました。違う分野の人間と協力し、手を動かして具体的な成果につなげる。そういう経験を多くの学生に味わってもらえたことは、本当に良かった。サポートして頂いた企業や医療機関の皆さんも喜んでくださり、医療の内と外をマッチングするというコンセプトが、実社会でも強く求められていると実感できました。

 この取り組みを通じて学んだのは、医療において最も大切なのは「人」だということです。医師は、どちらかといえば個人プレーヤーの要素が強い職業です。対してAppliCareは、チームで成果を挙げることを競うイベントでした。私を含めて多くの学生が「自分1人でできることなんて、限られているんだな」と感じたはず。医療の現場に立つ前にそういう体験をしたことは、参加者の大きな糧になったと思います。