次期iPhoneが採用するのではないかと噂され、脚光を浴びる新パッケージFOWLP(Fan Out Wafer Level Package)(関連記事)。半導体チップとプリント配線基板の間をつなぐ再配線層を、半導体工程を使って作る「ウエハーレベルパッケージ」の一種だ。期待を集めるFOWLPの市場について、フランスの調査会社Yole Developpement社でChief Technology Officerを務めるRozalia Beica氏に現状と今後の予測を聞いた。

問 現在、FOWLPの市場はどのような状況になっているのか。

 FOWLPそのものは新しいものではなく、2009年くらいから量産されてきた。生産しているのは、主にシンガポールSTATS ChipPAC社とポルトガルNANIUM社の2社で、全体の84%を生産している(図1)。この2社は、独Infineon Technologies社の開発したFOWLP技術「eWLB」のライセンスを受けている。ただし、その用途はいわゆるローエンド領域のみで、2014年時点での市場規模は1億7400万米ドル、2015年時点でも2億4400万米ドルと見込む。

図1 2014年段階でのFOWLP供給メーカー
図1 2014年段階でのFOWLP供給メーカー
(図:Yole Developpement社)
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 それが今後、ミドル~ハイエンド領域まで増えると予測している。台湾TSMCが2016年に市場に参入するのではないかと推測するからだ。米Apple社がiPhoneの次期アプリケーションプロセッサ―「A10」に採用するのではないかと思われる。つまり、DRAMを積み重ねて実装するPoP(Package on Package)の下パッケージを置き換えることになる。

 従来は、フリップチップBGA(FCBGA。半導体チップとパッケージ基板をバンプで接続し、パッケージ基板裏面にグリッド状のはんだボールを端子として設けたパッケージ)が使われていた。FOWLPは、フリップチップBGAに比べると、パッケージ基板がないので、薄型・小型にでき、電気特性も良いとされる。

 iPhoneへの搭載により、FOWLP市場は一気に拡大するだろう。私たちは2016年のFOWLP市場は前年比224%増の7億9000万米ドルに達すると、予想を変更した(図2)。

図2 2016年以降、FOWLPの市場規模は急拡大すると予測
図2 2016年以降、FOWLPの市場規模は急拡大すると予測
(図: Yole Developpement社)
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問 なぜ、ここにきてFOWLPはミドル〜ハイエンド領域へと用途を広げられるのか。

 FOWLP自体が進化しているからだ。例えば、当初のeWLB、いわば第1世代のFOWLPにはダイシフトという課題があった。チップをモールド樹脂に封止し、キュアリング(硬化)するとモールドが収縮し、チップが動いてしまう。そのため、チップ間隔を大きく取る必要があった。そこで、ダイシフトを測定、認識してから再配線層を作るといった技術を米Deca Technologies社が開発している。

 さらに「チップラスト」の手法も出てきた。FOWLPを作る過程で、チップの搭載と再配線層の形成とどちらを先に行うかという点だ。当初のFOWLPはウエハー状の支持体にチップを搭載して樹脂で封止してから、その上に配線層を形成する、いわゆる「チップファースト」だった。一方、チップラストではSiなどでできたウエハー状の支持体に再配線層を形成してから、チップを搭載して封止し、最後に支持体を除去する。この方法ならダイシフトもない。再配線層の不良により良品チップを無駄にすることもない。台湾Advanced Semiconductor Engineering (ASE)社や台湾SPIL社が採用する。ただし現在のチップラストには手間がかかり、コストが高いという課題がある。