──どのように3次元CGを作っているのでしょうか。
人体系の場合、まずCTやMRIで撮影した画像のデータが必要です。次に画像から心臓や肝臓など見たい臓器を抜き出し、その表面をメッシュ加工します。ここまでは医用画像処理といわれる分野。私が行っているのは、そのデータをどう使うのか、という実用化の部分です。すでに存在するデータを、どういう風に見せたら医師にとって役立つか、医師じゃない人にも興味を持ってもらえるかを考えています。データの価値を100倍にする見せ方を考えるプロといえるかもしれません。ここで重要なのは、何を見せたいかということです。実物に即したCG映像でなければ使い物にならない場合もありますが、用途によっては実物に即していなくとも使える場合があります。
実世界においても知らない場所に行きたいときに、衛星から撮影した航空写真よりも、詳細は省略されている「Google マップ」の方が使い勝手が良いでしょう。十字路が正確に直交していようが89度だろうが、それは道順を知るためには重要ではありません。同じようなことが医療の世界にもあります。精巧に再現できていなくとも、妥当な範囲で3次元の映像として見られればそれだけで役に立つものもあるのです。
もちろん、ミクロな正確さが求められるところもありますが、「とにかく中の構造がわからないからざっくりでもいいから見たい」という要望はマニアックでも診療科ごとに存在します。そういうものをリサーチしながら、これだったら今のCG技術だと結構な誤差が生じてしまうけれど、それでも十分役に立つという目利きをしつつ作っています。
気を付けないといけないと思うのは、見た目や質感をリアルに追求しすぎることで、3次元CGが完璧に臓器などを再現できていると思われないようにすることです。CTやMRIなどは、もしかしたら画像では見えていない血管や腫瘍があるかもしれないと考えながら医師は診断をします。しかし3次元CGにすると完璧なものだと思われてしまう場合があるのです。そこで、やぼったい昔ながらのCGを使うなどして完璧とは思わせないような見方をする必要があると考えています。あまりにも視覚的に訴えすぎて、ほかのツールに頼らなくなることを防ぐためです。
どこまでが実際に見える箇所でどこからは見えない部分なのかをきちんと明らかにすることも必要です。例えば、ある臓器の裏側など、現実の世界では直接には見えない空間がどうなっているのか知りたい場合、見えない空間を全部見せてしまっては意味がありません。本来見える部分はカラーで、見えない部分は白黒で表示するなどして、全部が実際に見えるとは思いこませない工夫を施すことが大事なのです。