――データの量ではなく“質”にこだわる。

 画像診断にディープラーニングを適用するためには、何十万枚もの画像データが必要だと言われたりもします。ですが我々は、少ない数の画像データからいかに効率的に学習させるかを重視しています。

 そのためには、専門医が精査した画像データをAIに学習させる必要がある。“一流の診断結果”を学ばせたAIを作ることが重要なわけです。私達はそうした専門医の知見を取り入れるために、国立がん研究センターなど10施設近くの医療機関と共同で研究を進めています。そしてAIの学習には、専門医に改めて細かく読影してもらった画像データを使っています。

 一方で、放射線画像だけによる診断には限界があるとも考えています。より正確な診断には組織の病理診断の結果をフィードバックする必要がありますし、将来は血液検査や遺伝子検査の結果なども取り入れていくことになるかもしれません。

 そうした“横との連携”が診断精度の向上には重要であり、コンピューターの処理能力の向上などによってそうした連携が可能となってきました。我々はそうした深いレベルでのCAD(computer aided diagnosis:コンピューター支援診断)の実現を見据えています。

――開発はどこまで進んでいますか。

 脳血管疾患やがんの画像診断を中心に開発を進めていますが、ここにきて非常に高い精度で病変を判定できるようになってきました。ディープラーニングなども用いて、医師と同等以上の判定精度が得られています。例えば従来手法では見逃しがちだった非常に小さい病変でも、90%を上回る感度で検出できている。特異度についても90%以上の水準を目指して開発を進めています。

 開発した診断支援システムについては、近く臨床研究などに利用できるような形で外部提供を始める予定です。並行して、医療機器としての承認申請の準備を進めます。事業化に向けたこれらの動きを年単位で進めていたのでは遅い。月単位で進めていく考えです。

 AIによる画像診断支援の障壁は、もはや技術ではなく、各種規制をどうクリアするかという点に移りつつあります。AIを用いた診断支援システムは、規制当局にとってはこれまで審査対象としたことがないわけですから、承認のための評価をどのように下すべきかの方法論が確立していません。この課題を突破することが鍵になる。関係する各方面との話し合いを深めていきます。

 事業化に当たっては、我々の技術をクラウドで提供するのが望ましいと考えていますが、クラウドの利用を敬遠する医療機関も存在しますし、提供形態はいくつか考えられます。医師側から見た利用形態に関しては、例えば複数のビューワーのうちの1つに、AIによるサジェスチョンが表示されるといった形が考えられるでしょう。

――生体組織の3次元構造に基づく、精度の高い病理診断技術の開発にも乗り出しました。試料作製や画像取得など、一連のプロセスを構築し直す試みです(関連記事)。

 病理診断のあり方を大きく変える、破壊的な取り組みになると考えています。病理画像診断を2次元ベースから3次元ベースへ変えることで、より高精度な診断ができる。そこに向けて、3次元の病理標本データを作るところから取り組みます。

 ここでは当初からコンピューターに学習させやすい標本データを作り、それを蓄積していくことが重要です。これを通じ、ディープラーニングなどの高度な技術を用いた病理診断支援を可能にしていきます。

 既存の病理画像は、コンピューターによる診断支援には適していません。画像になってしまってからでは手遅れ。その前の段階から取り組む必要があるわけです。

 開発は、医療機関および電子顕微鏡メーカーのTCK(福岡市)と共同で進めます。標本データの作り方から見直すという大掛かりな取り組みですので、学会などとも連携していく考えです。2018年ごろには、初期的な診断支援ができるようにしたいと思います。