新たなエネルギービジネスが次々と誕生している米国。特に、分散電源を活用した新たなビジネスモデルでは世界のトップを走る。そこで本連載ではシリコンバレーで25年超、エネルギービジネスなどのリサーチを手がけてきたクリーンエネルギー研究所の阪口幸雄代表に最新のビジネス動向を解説してもらう。初回のテーマは、阪口代表が「太陽光の10年後ろを追いかけている」と分析する定置型蓄電池だ(日経エネルギーNextからの転載)。

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 分散型電力システムへの移行は、今や世界の潮流だ。もちろん、米国も例外ではない。電力自由化が進んだ州や地域では、次々と新しいエネルギービジネスが産声を上げている。

 今回は、その中でも蓄電池ビジネスを取り上げたい。米国における定置型の蓄電池ビジネスは、早くもプレーヤーやビジネスモデルが出揃いつつある。

 米国の蓄電池産業の特徴は、蓄電池のセルの製造などを手がける「川上」はほぼ皆無であり、蓄電池を用いた川下ビジネスが極めて盛んな点である(ただし、テスラのギガファクトリーが本格的に稼働すると、この構図は大きく変化する)。

 定置型蓄電池を使う川下ビジネスとは、「サービスビジネス」だ。サービスの概要は蓄電池を貸与して電気代の節約を助けたり、需要家に太陽光発電と組み合わせて電力供給を提供するモデルである。

 サービスの提供相手は電力会社であったり、法人需要家であったりする。提供企業は、顧客と10年、20年という長期のサービス契約を交わし、地道にPPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)で稼ごうとする。

 電力会社向けにサービスを展開している事業者には、米AESエナジーストレージ(AES Energy Storage)、米グリーンスミスエナジー(GreenSmith Energy)、米テスラエナジー(Tesla Energy)などがいる。法人需要家向けでは、米ステム(STEM)、米AMS、米グリーンチャージ(Green Charge)が有名だ。

 蓄電池ビジネスの今後を読み解くカギは、実は太陽光発電にある。現在の蓄電池ビジネスは、10年前の太陽光発電と酷似している。蓄電池で起きている川下ビジネスの進化は、太陽光がかつて辿った道。つまり、この10年に太陽光の世界で何が起きたのかを振り返れば、蓄電池の今後が読み解ける。

 米国における太陽光発電セルの製造はこの10年で淘汰され、アジアのメーカーが90%以上のシェアを占めるに至った。だが、アジア製の安い太陽光発電セルやモジュールを活用した太陽光PPAビジネスが大きく伸びた。

 ここで言う太陽光PPAとは、日本で「第三者保有モデル」と呼ばれるビジネスモデルのことだ。サービス提供事業者が需要家側に設置した太陽光発電設備を保有し、自家消費と系統電力を組み合わせて電力を供給する。提供事業者と需要家はPPAを結び、電気料金を支払うというビジネスである。

 そして今、蓄電池を活用したサービスビジネスも、太陽光と同じく、米国企業が先導してマーケットを開拓している。ファイナンスモデル、PPAモデル、補助金と政策誘導等のアプローチが得意であり、自分でマーケットを作り、そこで当たり前のように先行者利益を享受する。

 ファイナンスモデルとは、米国におけるITC(Investment Tax Credit : 30%の連邦税控除)制度を活用するために、開発事業者が節税対策を望む企業を巻き込んだり、プロジェクトファイナンスに工夫を施して資金調達コストを下げることなどを言う。また、補助金や関連する政策を自陣に有利になるようにするために、連邦レベルでも州レベルでもロビー活動が極めて盛んである。