稼働率の高い「需要家蓄電池」
実は、壱岐には九電が国の補助金を活用し、出力4MW、容量1.6MWhもの大型蓄電池システムを2012年度に導入している。島内の変電所に設置し、電力系統に直接、繋いでいる。こうした設置形態を「系統蓄電池」という。この蓄電池は、島内系統の秒単位の需給バランスの乱れ(短周期変動)に対応して充放電し、周波数を安定化する目的で運用している。
また、鹿児島県の徳之島や北海道の稚内市には、メガソーラーに大型蓄電池を併設し、メガソーラー出力と合成して連系しているケースがある。こうした「再エネ併設型蓄電池」は、隣接するメガソーラーの出力変動を緩和する役割があり、電力会社の求める太陽光の接続条件を達成するために設置したものだ。
「系統蓄電池」と「再エネ併設型蓄電池」は、いずれも太陽光の出力変動に対応して充放電し、系統の安定的な運用に寄与している。こうした設置形態の蓄電池に比べ、今回、SBエナジーが制御した「需要家蓄電池」は、稼働率が高いという特徴がある。
「需要家蓄電池」は、需要家の構内配線につながっているため、夜間の安い電力を充電して昼に放電するなどの経済運転を行うことで、日常的に電気代を削減する用途に使える。ピークカットで最大需要を削減できれば、契約電力量を引き下げ、基本料金を下げられる可能性もある。
VPPを統括制御するアグリゲーターが蓄電池を活用する場合、「需要家に近い蓄電池ほど、利用目的が多くなり、稼働率が上がる。将来、VPPモデルを事業化するには、需要家蓄電池を束ねていく手法が最も事業性が高い」(SBエナジー)(図9)。
需用家のピークカットに蓄電池が効果を発揮するには空調需要の多い夏期と冬期が多くなる一方、系統全体の需給バランスが崩れやすいのは、需要の少ない秋期と春期に集中する傾向がある。「需要家によるピークカットでの利用と、系統運用者からの出力抑制指令に対応したVPP制御は、時期が違うので両立しやすい」(SBエナジー)。
VPPの事業モデルが普及すれば、ピークカット用の蓄電池を持つ需要家は、秋と春はアグリゲーターに空き容量を提供することで、手数料を受け取れる可能性がある。アグリゲーターにとっても、自前で蓄電池を導入するより、低コストで充電による需要を作れる。
ソフトバンクグループは、メガソーラーや風力発電などの開発・運営を手掛けるとともに、燃料電池によるオンサイト発電事業も展開している。加えて、VPP運用のカギであるICT(情報通信技術)分野の中心的な企業でもある。
VPPがどんな形でビジネスモデルとして確立し、成長していくかは、今後の規制改革や再エネの普及度合いによって変わってくる。そんななか、SBエナジーはまず実証によってVPPの基礎を固めることで、率先して新ビジネスの芽を育てようとしている。