「設置費相当額」を基本に交渉
上記のとおり、損害の考え方としては、「設置費相当額」と「将来の売電収益」のいずれの考え方もありうるところです。そして、太陽光発電システムに日照を受ける利益の保護は、絶対的な法的利益ではなく、太陽光発電システムの所有者の法的利益と隣地所有者の土地所有権に基づく法的利益の利益衡量により定まるものであるため、価値判断により、いずれの考え方も採用しうるものといえるでしょう。
そして、本来、建物の建築は自由であり、公法上の規制にも違反していないのであれば、隣地に影響を与えてもやむを得ないものです。それゆえ、太陽光発電システムの設置者は、太陽光発電システムに日照を受ける絶対的な権利を有しているものではありません。
したがって、太陽光発電システムを使って得られる経済的利益まで保護されるのではなく、あくまで、投資によって生じる損失の限度でのみ保護されるべきもの考え、「設置費相当額」の考え方の限度で法的保護を行えば足りると考えられます。
したがって、マンション建築業者は、近隣の太陽光パネルに影を落としてしまうマンションを建築する場合の補償金額について、無駄になった太陽光発電システムへの投資費用相当額を日照阻害の時間数を考慮して補償をする考え方を基本に、交渉を進めれば十分であり、将来の逸失利益の補償は必要ないと考えます(図5)。