本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第120巻第1188号(2017年11月)pp.10-15に掲載された「1DCAEの背景、考え方、課題、今後」の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

1D-CAEの考え方──対象をもれなくシンプルに表現

 ものづくりは概念設計に始まり、機能設計、配置設計、構造設計、製造設計と進む。しかし、設計初期段階は設計情報があいまいなため、CAD/CAEなどの設計支援ツールの適用が難しい。一方、CAD/CAEが適用可能となる設計後半は多くの設計制約があり、自由な設計が困難になる。そのため設計の上流段階から適用できる設計の考え方、設計支援ツールが望まれている。

 成熟した産業では配置設計、構造設計を起点にしたものづくりも十分な効果が期待できるが、顧客の多様な要求への迅速な対応が必要な分野では、その起点を上流の概念設計や機能設計に置くことが強く求められている。そこで上流段階から適用可能な設計支援の考え方、手法、ツールとして1D-CAEを提案している。「1D」は「1次元」ではなく、物事の本質を的確に捉え、見通しの良い形式でシンプルに表現するという意味である。

 1D-CAEにより、設計の上流から下流までCAEで評価可能となる。ここでいうCAEはシミュレーションだけでなく、本来のComputer-Aided Engineeringを意味している。1D-CAEでは、製品設計にあたり(形を作る前に)機能ベースで対象製品全体(もの・ひと・場)を漏れなく表現し、評価解析を可能にすることで、製品開発上流での全体適正設計を実現する。この全体適正設計の結果を入力として個別設計(形を作る)し、その結果を全体適正設計に戻してシステム検証を行う。

 1D-CAEは製品開発目標を設定し、これに則り概念設計・機能設計を行う。製品の機能を考えて設計仕様を仮決定し、これを3D-CAEに渡す。3D-CAEでは受け取った仕様から構造設計、配置設計を行う。いわゆる構造を考えるところであり、従来のCAD/CAEが威力を発揮する。その結果を1D-CAEに戻し、システムとしての機能検証を行う。広義の1D-CAEとは、この1D-CAEを起点とした3D-CAEも含む設計の枠組みである。