本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1173号(2016年8月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 1987年に始まったムーンライト計画「高効率ガスタービンの開発」により、多くの課題が系統的に研究された。ガスタービン高効率化へ向け、大型化とタービン入口温度TITの高温化が図られ、圧縮機の改良により燃焼器への供給空気量と圧力の増大が進んできた。

 このためには、圧縮機段数の増加を抑制して構造設計要求を満たし、全体流量の増加、各段の空力負荷レベルの適正化、空力安定性を確保する最適設計と実証が必須となる。圧縮機流れは圧力比の大きい逆圧減速流れのため、低圧段での衝撃波安定化、流れの断面内均一性確保、境界壁での流れはく離や2次流れ制御などを総合的に配慮した設計が重要となる。

圧縮機設計の変遷

 軸流圧縮機の圧力比、段数と周速マッハ数の推移を見ると、TITの高温化と空気流量の増加に対応し、周速が増えて圧力比が増大してきた。初段動翼の周速は遷音速域に達した。近年、圧力比はさらに増加し続ける一方、段数は据え置かれている。

 1990年代以降、圧縮機設計には通路設計を含む3次元多段設計法が実用化された。その設計法では基本翼型を選ぶ必要がある。圧縮機翼には、遷音速の前方段に数種の円弧を組み合わせた多重円弧翼(MCA)、高亜音速の後方段に拡散制御翼(CDA)を使う。MCA翼は負圧面の圧力分布が滑らかで発生衝撃波が弱まり、損失が低減する。CDA翼はNACA65型より有益なインシデンス範囲が数度広く、負圧面での減速が後縁まで連続的で、翼面境界層摩擦が低下する。

 数値流体解析(CFD)による知見と機械加工精度の向上により、細部までの洗練が進んでいる。翼型の前縁形状を円弧翼から楕円形状に修正した例では、前縁での翼面曲率の変化が連続的になり急激な圧力上昇が解消され、プロファイル損が低減し作動域が拡大した。

 高負荷化へ向け、流れの半径方向分布や翼端流れの改善を図るには、翼列の3次元設計が不可欠である。高負荷の静止翼列にはスパン方向に翼を湾曲させ、高さ方向の負荷分布を変えて端壁部の2次流れ損失やコーナーはく離の抑制を狙った3次元形状を採用している。

 流入マッハ数が1を超える初段動翼では、翼端側前縁付近に3次元的衝撃波が発生し、後続翼との翼間に通路衝撃波を形成する。従来の半径方向に直線的な形では衝撃波が主流に対し垂直となり、後続翼負圧面の境界層を刺激することで、MCA翼の長所を阻害し大きな損失が発生する。このため、翼を前方にスイープさせて損失を低減し、チョーク流量限界も大きくする。従来と流れ場を比べると、スイープ翼では翼端の衝撃波も弱く、ミッドスパンでの流れの変化は小さい。