本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第120巻第1184号(2017年7月)pp.10-11に掲載された「「空気をきれいにする車」の技術的バックキャスト」の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)
日本機械学会は創立120 周年記念事業として「未来マップ作成プロジェクト」を立ち上げた。機械の日(毎年8月7日)・機械週間(同8月1~7日)の企画行事として、幼児から中学生までを対象にした「絵画コンテスト」の応募作品を基に、それらを実際に実現するためのステップを考察(バックキャスト)し、未来の機械工学を想像することを目的にしている。

[1]対象絵画の選定と技術要素への分解

 「未来マップ作成プロジェクト」のテーマの1つに、幼稚園児の描いた「空気をきれいにする車」(図1)を選んだ。この絵では、走行中の車が汚染物質を含む周囲の空気を吸い込み、後方から浄化された空気として出しているように見える。その実現についてバックキャストの手法により、目的の機能を実現する技術を技術要素に分解し、続いてそれらの対応技術に今後どのような課題解決や改善が必要とされるのか、という視点から検討を行った。

図1:2015年度「機械の日・機械週間」絵画コンテスト受賞作品「空気をきれいにする車」
図1:「空気をきれいにする車」
2015年度「機械の日・機械週間」絵画コンテスト受賞作品
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 大気中の汚染物質は環境省のWebサイトにまとめられており、燃焼により生じる窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)のほか、主なものとしては、揮発性有機化合物(VOC)、浮遊粒子状物質、光化学オキシダントなどに分類されるようである。本試行ではこれらを除去の対象としている。

 大気中汚染物質除去技術を「分解」と「分離」とに分けたうえで、(i)面積的分解(光触媒)、(ii)体積的分解(大気圧プラズマ)、(iii)面通過分離(フィルター)、(iv)体積通過分離(電気集塵)とに分類した。(iii)はフィルター技術、(iv)は電気集塵技術が考えられた。しかし(iii)は走行に対する流体力学的抵抗が著しく増大しそうであること、また、(iii)と(iv)はフィルターの定期的交換や堆積した塵の定期的な除去作業を要することからひとまず検討から除き、(i)と(ii)のみを考えることとした。

 具体的に、(i)については光触媒技術を考え、(ii)については大気圧プラズマ技術を考えた。さらに前者は、太陽光を用いて車の表面で受動的分解を行う方法(i-a)と、自動車のもつ電気エネルギーの⼀部をLEDなどの光源の電力に用い、車内部で光触媒を用いた能動的分解を行う方法(i-b)とに分けた。