本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1169号(2016年4月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 地球温暖化と資源枯渇問題を同時に解決する水素エネルギーへの期待が高まっている。わが国では2014年発表の「エネルギー基本計画」で「水素社会」実現に向けたロードマップを策定し、取り組みが明記された。各種水素利用システムの規模に適した経済性の高い水素の製造方法に加えて、輸送貯蔵方法の実用化が重要である。

各種の水素輸送媒体と水素の密度

 水素貯蔵輸送システムに適用する水素媒体への要求機能はさまざまなものがあるが、特にコンパクト化と軽量化が重要である。コンパクト性はシステム容積効率で、軽量化はシステム重量効率で評価される。システムには媒体以外に容器、弁類、水素吸蔵放出用の付属機器なども含まれる。商用段階にある輸送方法には、水素100%で輸送されるCGH2(圧縮水素ガス)、LH2(液体水素)、パイプラインによる輸送があり、研究段階の水素媒体は、水素を吸収反応させた媒体を輸送する吸蔵合金系、化学・炭素・錯体系などがある。

 高い容積・重量効率を示す媒体はコンパクト化と軽量化に有利だ。吸蔵合金系は、重いが高い容積効率を示し、錯体系、液体燃料は容積・重量効率ともに高く、例えば液体燃料のアンモニアの重量効率は約18%、容積効率は約120kg/m3である。しかしこれは物質の効率であり、システム効率は低下する。米国エネルギー省(DOE)が掲げる目標値は2015年でシステム重量効率9%、システム容積効率81kg/m3で、どの媒体も目標に到達していない。

 CGH2、LH2、パイプラインでは水素100%を輸送するが、その密度が輸送効率に影響する。CGH2では温度一定の条件で圧力を上げると密度は増加し、例えば温度300Kのもとで大気圧から80MPaまで圧力を上げると、密度は0.089kg/m3から約50kg/m3に増加する。LH2の液密度は大気圧状態(温度20.3K)70.8kg/m3と、80MPaのCGH2の約1.4倍になる。またCGH2を低温冷却すると密度はLH2密度以上に増加するため、低温圧縮の貯蔵輸送方法も検討されている。