本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1169号(2016年4月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 水素は石炭、石油、天然ガス、バイオマス、太陽光発電などさまざまな1次エネルギーから製造できる。その輸送用燃料としての利用が広がれば、その原料多様性により調達リスクが下がり、安定供給へ寄与することになる。現在、水素を用いた燃料電池は、同規模では他に比べエネルギー効率が高いことなどから普及が拡大している。太陽光発電や風力発電の大量導入に伴う余剰電力の水素によるエネルギー貯蔵も期待されている。こうしたエネルギー媒体としての水素利用が進むと、製造・輸送・貯蔵・供給からなる大規模な水素インフラが必要となる。ここでは、このうち特に水素製造について解説する。

水蒸気改質による水素製造

 水素製造は、化石燃料や水など容易かつ大量に入手可能な原料を用い、分子内に水素原子を含む化合物から水素を取り出すプロセスである。化石燃料をその出発原料とする場合、水蒸気改質反応および部分酸化反応が用いられ、水を原料とする場合は電気分解反応が用いられる。

 水蒸気改質では水素と一酸化炭素が混合した合成ガスが得られる。この合成ガス自体も原料として用いられるが、多くは分離・精製される。水素のみが必要な場合、合成ガス中の一酸化炭素はシフト反応により水素と二酸化炭素に変換される。

 水蒸気改質はシフト反応よりはるかに高い反応温度が必要となるため、シフト反応の発熱分での相殺は困難である。しかし、発電などの利用段階を含めて考えると、水素製造と利用が一体化した特殊なケースなどでは利用段階の排熱を製造段階で利用でき、総合効率の大幅な向上を見込める。利用段階の排熱を水蒸気改質に使用した例としては、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell)型燃料電池が実用化されている。