本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第120巻第1181号(2017年4月)pp.10-13に掲載された「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ~日本機械学会の研究分科会からのイノベーション~」の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

日本版インダストリー4.0

 2015年6月13日、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)の設立記念シンポジウムが開かれた。日本を代表する製造業53社が、企業の枠を越えてつながるものづくり実現のためにスタートした団体は、いまや会員200社を超え、日本の第4次産業革命を担う存在になりつつある。そのきっかけは、日本機械学会の生産システム部門が進めた活動である。

 ドイツのインダストリー4.0の取り組みが日本のメディアに登場し始めたころ、本会生産システム部門で「日本的な“つながる工場”実現へ向けた製造プロセスイノベーションの提案」が提出された。その後、2014年10月に正式な研究分科会「インターネットを活用した『つながる工場』における生産技術と生産管理のイノベーション研究分科会(P-SCD386)」をスタート。2015年6月のIVI設立に至った。

IVIの目的と特徴、3つのキーワード

 IVIは、デジタル化社会に対応した次世代のつながる工場を、企業や業界の枠を越えて実現するための組織である。企業の種類や規模、地域や国や文化が違っても、つながりによる価値を共に作り出すことが重要なのだ。オープン・イノベーションが進む中、競い合う企業も協調すべき部分は大胆にオープン化する必要がある。IVIは、こうした協調と競争のバランスよい発展のためのエコシステムを先導する。その特徴は3つのキーワードで表現できる。

(1)人とシステムとの協調と共生
つながる工場はデジタルな世界とアナログな世界が重なり合い、アナログ側では人を中心に機械やシステムの最終的な意思決定、問題発見や課題解決を行う。IVIは人と機械がデジタル技術を活用して協調し、それぞれは自律的な生産システムであることを目指している。

(2)現場中心のボトムアップ連携
つながるためのプラットフォーム全体は、情報システムとしてトップダウンに設計される。他方、その具体的運用や個別の現場が相互につながるための方策は現場中心で考え、ボトムアップに組み上げていく。IVIではデジタルで連携しつながることで全体最適も可能とする。

(3)個を活かすゆるやかな標準
各現場の業務が各システムやコンポーネントを介してデジタルな世界でつながるには、接続のための取り決めが必要となる。IVIではあらかじめ決められた固定的な標準はなく、個々の実情に応じ臨機応変に対応できる“ゆるやかな標準”となっている。