本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1167号(2016年2月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 液体に強力な超音波を照射すると発光することが1934年より知られ、ソノルミネッセンスと呼ばれている。通常のソノルミネッセンス(マルチバブル・ソノルミネッセンス)では、実際に発光しているのは液体中の微小な気泡(音響キャビテーション気泡)だ。

 音場中のキャビテーション気泡は音波の疎密の周期に同期して膨張収縮を繰り返すが、非線形性が非常に強く、膨らんだ後に急激に収縮する。軽い気体に比べ約千倍重い液体の慣性により、一度気泡が収縮する方向に加速すると気泡内部が固体密度近くなるまで圧壊。気泡内部は数千度・数百気圧になり発光する。

シングルバブルとマルチバブルのソノルミネッセンス

 ソノルミネッセンス現象の理解が急速に進んだのは、1989年にGaitanが脱気した水中でつくった1個の安定したキャビテーション気泡から、ソノルミネッセンスが生じることを発見してからだ。これはシングルバブル・ソノルミネッセンス(Single-bubble Sonoluminescence=SBSL)と呼ばれ、多数気泡からの発光はマルチバブル・ソノルミネッセンス(Multibubble Sonoluminescence=MBSL)と呼ばれた。なお、世界的にあまり認知されていないが、SBSL は1962年に大阪大学の吉岡勝哉らが日本音響学会で発表している。

 SBSLの研究により、キャビテーション気泡のダイナミクスが実験的にも詳細に観察できるようになり、気泡がつぶれる瞬間の数百ピコ秒の短パルスで、超音波に同期して毎周期発光していることが分かった。シングルバブルが定在波音場の音圧の腹に捕捉されて1点で光るのに対し、マルチバブルは数m/秒の高速で特定経路を流れるように移動し、その経路全体が光っているように見える。定在波音場中のMBSL分布は音場分布と対応し、音圧の腹の領域で光り、音圧の節で光らないため、半波長間隔の縞模様として観察される。