本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1167号(2016年2月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 熱音響システムは、熱を投入して音波を発生させる熱音響エンジンと、音波から温度差を作り出す熱音響ヒートポンプという2つのシステムで構成される。両者を組み合わせ、熱エネルギーを音波に変換して遠隔地に伝搬させ、再度熱エネルギー(温度差)に変換させられる。得られるのは温度差なので、高温端を室温の冷却水で冷却すれば、低温端では氷点下の温度も発生できる。

熱音響現象

 空気中を進む音波は、縦波(粗密波)として伝搬する。すなわち音場中の空気は、音波の圧力変動で膨張・収縮を繰り返している。気体は圧縮すれば発熱して周囲に熱を放出し、膨張すれば熱を吸収して周囲を冷却する。

 音波を遮らない薄い壁で囲まれた多数の微細流路を、音波の伝搬方向に沿って設置すると、媒質圧縮時に熱を放出して流路壁を加熱し、膨張時に熱を吸収して冷却させる。また、圧縮・膨張に伴い気体要素の位置が変位する場合、加熱点と冷却点の位置が異なるため熱の移動が起こる。定在波音場のように振動振幅が位置により変化する音場中にこの微細流路を設置すると、流路の一端から他端に熱を移動させられる。

 既存のエアコンなどの冷却システムでは、コンプレッサで冷媒を加圧・減圧してヒートポンプとするが、熱音響システムでは、音波による空気の振動で媒体を加圧・減圧し、微細管の中でミクロにヒートポンプ現象を実現する。また、熱音響現象は理想極限では可逆現象であり、微細流路の両端に温度差を与える音波が発生する。古くはパイプオルガンの修理時に溶接の熱でパイプが鳴ることが知られていたし、吉備津の釜と呼ばれる神事で米粒の間の隙間の温度差で釜が鳴ることで豊作を占っていたのも、熱音響現象である。