本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1166号(2016年1月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 最近はメカトロニクス技術が義肢装具に組み込まれ、四肢障害者の運動機能の再建を進め健常者に近づけることが可能になりつつある。

義足の高機能化―膝継手部

 メカトロニクス技術を導入し、大腿切断者用の義足の遊脚相の速度制御を行って歩行速度を変えられる膝継手が1980年代に実現した。足が地面から離れている遊脚期に膝継手の屈曲・伸展速度のわずかな増減を近接センサーで検出して装着者の意図を検知。ステッピングモーターを駆動し空気圧シリンダーの弁開度を調節して遊脚期の時間を変化させる方式で、電池駆動で数カ月の連続使用が可能である(インテリジェント膝継手:ナブテスコ社)。

 その後、立脚相制御の油圧サーボシリンダーを組み込んだ義足膝継手が1990年代に製品化された(C-leg:独OttoBock社)。義足に組み込んだセンサー群で力学情報と膝継手角度を検出して義足の状況を推定。有限個の歩行状態(踵接地、足底接地、爪先離れ、遊脚前半、遊脚後半)のいずれに属するか、また、それらの状態間のどの移行期にあるか判断し、油圧サーボシリンダーで個々の状況に最適な膝軸周りのブレーキトルクを生成する。

 さらに3軸加速度センサーとジャイロセンサーを付加して義足の空間運動情報や歩行路面の傾斜情報を検知し、より精密にブレーキトルクを制御。1足1段の交互歩行で階段を上り、義足側で障害物を跨ぐなどの動作を確実に行える膝継手が製品化された(Genium:OttoBock社)。また機能性流体のMRF(磁気粘性流体)を応用し、簡単な構造ながら流体内のゴミの影響を受けず極めて高い応答速度でブレーキトルクを生成する義足膝継手が2005年に製品化された(RheoKnee:アイスランドOssur社)。運動速度に応じ適切なブレーキトルクを生成する適応制御を初めて取り入れ、切断者の身体的負担をより軽減している。

 これらが製品として普及することで、大腿義足による歩行リハビリ訓練に要する期間が大幅に短縮された。2006年には移動型ロボット研究で用いるSEA(Series Elastic Actuator)を小型軽量化した動力膝継手が公開され(PowerKnee:Ossur社)、米国の傷痍軍人などに支給されている。しかし、SEAは駆動音が大きく、長時間歩行には大容量の電池が必要などの問題が残されている。

義足の高機能化―足部・足継手部

 高機能な足部・足継手部として、歩行路の傾斜角度に応じて足継手の中立位角度を底背屈方向に可動調節する方式の足部が製品化され(Proprio Foot:Ossur社)、傾斜路面の歩行が大幅に改善された。動力足部としては、MITのHugh Herr教授が2013年に製品化したiWALKがある。小型軽量化したSEA機構により足継手軸周りにヒトの足関節と同等のモーメントを生成。床を積極的に蹴って走行可能となった。使用者に合わせた調節が可能で、アメリカの傷痍軍人500名以上と市民に提供されている。