本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第120巻第1189号(2017年12月)pp.22-24に掲載された「鉄鋼材料の欠陥(介在物)による高機能化」の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 自動車のエンジン、トランスミッションの機械部品やOA機器の精密部品用鋼材は、硬さや強さだけでなく、加工しやすく削りやすい“被削性”が求められる。被削性には[1]切りくずの分断性(切りくず処理性)が良い、[2]加工中に工具にかかる力(切削抵抗)が小さい、[3]加工する工具が摩耗しにくい(長寿命)、[4]加工後の仕上がり(面性状)がきれい、の4特性がある。いずれも多様な加工工程で生産性や品質の向上につながるため、このニーズに応える快削鋼が多く使われてきた。

 快削鋼とは、鉄(Fe)に炭素(C)やマンガン(Mn)を含ませて強度を確保した上で、少量の鉛(Pb)や硫黄(S)を介在物として鋼材中に存在させ、被削性を向上させた鋼材である。それぞれ鉛快削鋼、硫黄快削鋼と呼ばれ、特に後者ではSはMnと反応しマンガン硫化物(以下MnS)として分散している。

 鉛は1920年頃に被削性の改善効果が発見され、1937年米国で初めて鉛快削鋼が実用化。以後イギリス、ドイツなどで量産化された。日本でも1950年代後半に量産を開始。以降、機械部品用の強度と被削性を兼ね備えた“機械構造用鋼”向けに、鉛添加の適用が主流となった。

 1990年代後半頃から主に欧州で始まった環境負荷物質低減のための鉛の使用制限では、鉛含有量が0.35重量%(以下%と記載)以上の鉛快削鋼は、規格上では鉛規制対象に該当する。ただし、鉛快削鋼は高い被削性による切削加工の動力負荷低減や省エネルギー効果への期待もあり、現時点では適用除外され機械部品用鋼材として使われている。

 それでも、国内の自動車メーカーや部品加工メーカーでは鉛使用規制の気運の高まりにより、鉛快削鋼に代わる「非鉛快削鋼」が求められている。国内鉄鋼メーカー各社が独自の開発思想で開発しているが、現在の快削鋼における非鉛化技術は、硫黄快削鋼におけるMnSの応用的活用が主流である。ここでは新日鐵住金の取り組みと考え方を紹介する。