人工光源を利用した植物工場は、日本国内、海外で既に普及拡大のフェーズに入った。ただし、設備を導入すれば誰でも収益が出るわけではない。事業主には独自の販売チャネルや利益率の高い独自の品種・栽培方法を編み出して、排他的に事業継続する中期的な戦略実施・事業計画が求められている。本稿では、植物工場において効果的な植物育成の鍵を握る照明を、LED化する意義について紹介する。さらに、閉鎖型植物工場を建設する本来の目的についても考える。

はじめに

 現在、日本では食料自給率の向上、地球温暖化による異常気象、食の安全性への懸念などを背景として、植物工場が注目を集めている。植物工場は、植物の生育環境を人工的に制御して栽培を行う施設園芸の中でも、特に高度に光環境、温度環境、養液成分などを植物の成育に応じてコントロールし、周年・計画栽培を実現する温室やクリーンルームなどの施設のことを指す。

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 植物工場では、環境を人工的に制御することで、露地栽培より早い栽培日数を実現して回転率を高め、大量生産を実現したり、品質面をコントロールしたりすることにより、消費者のニーズに合わせた野菜作りができるようになる。こうした特徴を生かし、付加価値を追求した全く新しい農業のスタイルを提供することが可能である。

 その中で、特に光をコントロールすることが植物工場での課題とされている。これまで太陽光に替わるものとして、主に蛍光灯やナトリウムランプなどが一般的に使用されてきた。しかし、これらの照明は人の目の特性に焦点を合わせて開発された器具類(測定は人の視感度に合わせて計測する照度計による)であり、植物にとっては必ずしも最適な光とは言えなかった。

 植物の光合成曲線に合わせた最適な波長だけを効率的に照射して消費電力削減を図るには、LEDが最も有効である。ただし、LEDに関してはこれまで、植物の育成に最適な波長とされる660nmの出力が課題とされてきた。

 そのような状況の中、我々は2009年4月に、発光波長660nmの赤色LEDとしては世界最高出力(Typ.11mW/20mA)の素子の開発に成功し、いよいよ植物工場のLED化が本格化されるに至った。既に全国で25工場の導入実績がある(2015年10月現在)。