東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年が近づくにつれ、年々スポーツ競技に対する関心が高まっているが、競技が行われる施設では、省エネルギーへの取り組みとして、既存の照明器具からLED照明器具に置き換わりつつある。しかしその一方、小さい発光面積から光が照射される白色LEDを光源としたLED照明器具は、輝度が高いという特徴を持つため、既存の照明器具からの単純な置き換えには注意が必要との声もある1)

 高い輝度はグレアを生じやすくするため、近年、グレアを評価する指標の研究が盛んに行われているが2)、オフィス、街路、道路、自動車のヘッドライトを対象にしている研究が多く3)-6)、スポーツ施設における研究はあまり行われていない。上述したようにスポーツ施設にもLED照明器具が導入され始めており、スポーツ競技でのグレア対策は必須である。そのため、スポーツ施設向けのグレア評価指標の開発は重要な研究課題といえる。

 現在、スポーツ施設におけるグレアはGR(Glare Rating)を指標にして評価される7)。しかしGRは競技者の視線方向が俯角2°のときの不快グレアの指標であるため、様々な方向に視線を向けるスポーツ競技においては十分な評価指標とはいえない。特に視線方向を頻繁に変える球技においては、視界に照明器具の発光面が入ると、ボールの見え方を妨げられてしまうことがあるが、この現象はGRでは評価できない。このような背景から筆者らは、球技を行うスポーツ施設における照明器具の発光面に視線を向けたときのグレア評価指標のあり方について着目した。

 球技において重要なことはボールの見え方である。そこで、“照明にボールが重なると消えて見えなくなる”という実際の球場で起こる現象に着目してグレア評価指標の研究を進めることにした。この現象は輝度が高い照明器具を新設したことにより生じた可能性が高い。そこで本稿は、研究の第一段階として、照明器具の発光面にボールが重なると消えて見えなくなる現象(以下、ボール消失現象)を引き起こす輝度の閾値(以下、輝度閾値)を明らかにするため、野球経験者を被験者として球場で行ったボールの見え方に関する実験について報告する。