本記事は、照明学会発行の機関誌『照明学会誌』、第101巻、第6号、pp.239-242に掲載された「RGB色LEDを用いた照明による近点距離の短縮効果」の抜粋です。照明学会に関して詳しくはこちらから(照明学会のホームページへのリンク)。

はじめに

 2014年に我が国の科学者がノーベル賞を受賞した青色InGaN系LED の発明により1)、LED は高効率長寿命の照明光源として普及している。現経済産業省の主導で2003年度まで実施された「高効率電光変換化合物半導体開発」プロジェクトにおいては、InGaN 系LED のエネルギー効率WPE が14~40%以上にまで向上し2)、今日では国を挙げてLED 照明の普及が推進されている。照明用LED 光源の性能は、今日まで高い発光効率と自然光に近い演色性と色度の実現に注力した開発が行われてきた。現在、照明用LED 光源には青色LED チップの青色光とYAG:Ce 系蛍光体の黄色光との混色による擬似白色の高効率白色LED3)が主に用いられている。

 白色LED には赤・緑・青・黄橙色のLED チップを搭載したマルチチップタイプも開発されているが、発光スペクトルが狭く欠落波長域が広いことに起因して演色性が低いので、照明光源には不向きと考えられてきた4)。しかし、各色を細かく制御することでフルカラー発光が可能になるため、赤・緑・青のRGB 色LEDのマルチチップタイプ白色LED や各色LED を個別搭載したモジュールが、LCD のバックライト用光源やLED ディスプレイ、道路表示板などの表示装置に多用されている5)

 本稿では、RGB 色LED を用いた照明の照射光の下においては、焦点調節できる最短の視距離である近点距離を短縮する効果が得られることを、実験結果により報告する。近点距離は老視によって伸長するので、高齢化社会においてはRGB 色LED を用いた照明の活用が有効であると考えられる。また、近点距離の短縮要因についてはいまだ明解な答えが得られてはいないが、解析を試みた結果について報告する。