1.はじめに

 ヒトの様々な生理現象(体温、心拍、ホルモン分泌、睡眠覚醒サイクルなど)は約24時間周期で変動している。この約1日を周期とした変動をサーカディアンリズム(概日リズム)と呼ぶ。サーカディアンリズムは脳の視床下部に存在する体内時計によって調節されているが、時間的な手がかりもなく常に一定の環境下で生活を行うと、サーカディアンリズムは24時間より長くなることが知られている1)。普段の生活でサーカディアンリズムの周期が24時間からずれることがないのは、地球の自転に伴う明暗周期にサーカディアンリズムが同調しているからである。

 光はサーカディアンリズムの最も強力な同調因子として作用する。特に朝に浴びる光は、サーカディアンリズムが後ろにずれないようにリセットする働きがあるので重要である2)。一方で、夜に浴びる光はサーカディアンリズムを後ろにずらす作用がある2)。現代社会では、人工照明の普及に伴って明るい夜を過ごすことが可能になった。その利便性とは反対に、夜の光が私たちの健康に負の影響を及ぼしているという証拠も増えつつある。

 夜の光は、サーカディアンリズムの夜型化に影響を及ぼす可能性があるだけではなく、メラトニンの分泌や睡眠に影響を及ぼすことで、交代制勤務者においては癌や肥満のリスクを高めている可能性も指摘されている3)

 網膜で受けた光は脳の中で主に2通りの経路で処理される(図14)5)。1つは脳の視覚野に光の情報が伝えられ、明るさや色などの知覚が生じる。もう1つは網膜視床下部路を介して視交叉上核(体内時計の中枢)や視蓋前野などに情報が伝えられ、サーカディアンリズムの光同調、メラトニンの分泌抑制、覚醒作用、瞳孔の対光反応などの生体反応を引き起こす。これらのサーカディアンリズムを中心とした作用は、光の知覚機能とは異なることから光の非視覚的作用(non-visual effects)、または非撮像的作用(non-image forming effects)と呼ばれている。

図1 光によって引き起こされる生体反応(樋口、2013より引用、一部改)<sup>5)</sup>
図1 光によって引き起こされる生体反応(樋口、2013より引用、一部改)5)
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