本記事は、照明学会発行の機関誌『照明学会誌』、第101巻、第9号、pp.437-440に掲載された「災害とあかり:津波避難誘導の新たな試み」の抜粋です。照明学会に関して詳しくはこちらから(照明学会のホームページへのリンク)。

はじめに

 2011年の東日本大震災以降、各地で住民の防災教育・啓発や防災体制の向上を図るための大規模な避難訓練が積極的に行われている。訓練は一般的に昼間に行われることが多いが、夜間に災害が発生する可能性もあり、避難訓練を夜間に実施している自治体もいくつかみられる。暗闇でも安全で円滑な避難を確保するためには、照明による避難経路の環境改善と適切な避難誘導が重要である。これまでも停電時でも動作するような避難誘導照明システムがいくつか提案されているが、その有効性については研究段階である。

 筆者は、2015年から、神戸大学、富山大学、パナソニック(株)とともに津波避難誘導照明システムの開発に協力しており、同年11月には、南あわじ市福良地区において試作機を設置し、住民を対象とした夜間避難訓練を実施した1)。この津波避難誘導照明システムは、誘導標識の下部にフラッシュ装置が取り付けられており、災害時には防災行政無線と連携してフラッシュ光を点滅させ周囲を照らすことで、誘導標識の誘目性が向上するように設計されている。避難訓練の結果は、道路横に設置した誘導標識に気付く割合はおおむね高く、全体で90%を占めた。また同日この土地をはじめて訪れた人を対象にした避難行動実験も実施した1)

 被験者は観光客を想定したもので、避難所や避難経路の情報は一切与えられずに、夜間に津波が発生したという条件で、ある地点から避難を行う。実験の結果は、途中で誘導標識に気付く人が6人中1人と想定よりも少なかった。被験者のほとんどは、避難開始直後、高台方向を認識できず、避難経路の選択に迷ってしまい、危険な方向に向かうケースもみられた。一方、誘導標識に気が付いた被験者はスムーズな避難ができ、避難中もほかの被験者と比べて不安感が少ない結果となった。観光客などその土地に不慣れな人にとっては、夜間避難の誘導標識は非常に有効であるが、その誘目性を向上させる仕様については再検討が必要となった。