著者らはこれまでに、イネの光害(ひかりがい)に対する対策を紹介してきた1)-4)。特に、夜間の社会・経済活動において、安心・安全を確保するインフラの1つである夜間照明の、その価値を損なわず、さらにイネの光害が回避できる照明の開発を行った。しかし、照明装置の交換や新規導入は困難であり、解決には時間を要すると考えられる。また、屋外照明に関しては、2007年9月に「道路照明施設設置基準」が改訂され、歩道照明および交差点照明の基準・解説の追加、および明るさの推奨値が示された5)。合わせて、2013年7月時に国内の耕地面積の54.3%(約247万ha)を占める水田については、2004年から10年間で約14万haが減少しているが、その内の3割にあたる約3.8万haが宅地等へと転換されており、水田と宅地が混在した状態へと変化していることが判断できる*1。すなわち、光害の発生しやすい状態が拡大しているとも考えられ、どのような照明がどの程度光害のリスクを抱えているか、新設する照明がイネに影響を及ぼしうるのか等を判断する必要性に迫られている。

*1 農林水産省:平成25年耕地面積(7月15日現在)、http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/pdf/menseki_kouti_13.pdf

 そこで、本研究では、設置した照明の光害リスクを加味したイネ発育過程のモデル化を試みた。イネの発育過程のモデルは、堀江および中川6)7)によって開発されており、移植日や品種、栽培地の日長、気温条件を元に出穂期と成熟期を推定することが可能である。このモデルを使用したシステムは、「web水稲生育予測」としてwebサービスも提供されている*2。このモデルに新たに光害の影響を反映する項を加えることにより、事前に照明の光害リスクを予測するとともに、一時消灯といった光害対策を効果的にかつ適切な時期に行い、そして可能な限り道路の安全を確保する照明・栽培管理支援を提案することを目的とした。

*2 近畿中国四国農業研究センター:web水稲生育予測、http://www.aginfo.jp/RGP/