本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第86巻、第11号に掲載された「スケーリングIGBTが拓くパワーエレクトロニクスの新しいパラダイム」の抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

ネガワットコスト

 21世紀は電気の時代であり、2050年までに電気エネルギーは経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development: OECD)諸国で16%、非OECD加盟諸国で145%のばく大な電力需要の増加が予想されている1)。このような時代のCO2の削減では、電力を高い効率で利用し融通するパワーエレクトロニクス技術の普及が重要である。

 最近では、パワーエレクトロニクス技術による電力の高効率利用技術の重要度は、リニューアブルエネルギーと同等の価値があると考えられるようになってきた。すなわちパワー半導体やパワーエレクトロニクス技術による効率向上により削減されたエネルギー消費分は、CO2を発生しない発電と等価であるという考え方が定着してきている。このような、効率改善による「発電」を「ネガワット」 2)と呼び、そのキロワット時当たりのネガワット発電にかかる費用をネガワットコストと定義する3,4)

 CO2削減に欠かせないネガワット発電の拡大には高効率パワーエレクトロニクス技術の普及が必須であり、高い量産性によるネガワットコストの改善が鍵となる。

 高効率パワーエレクトロニクス普及の課題の1つに人材育成がある。従来、パワーエレクトロニクス技術やパワー半導体デバイス制御技術には熟練したエンジニアの経験が必要とされ、日本企業の競争力の源と考えられてきた。ところがパワーエレクトロニクス技術の世界的な普及が急務となり、国内エンジニアの不足が、近い将来、市場の獲得への足かせになると予想されている。中国などでは人材育成が加速し、この分野での競争力の逆転が危惧されており、新概念技術の研究開発が急がれている。

 また、電力の利用形態も大きく変化しようとしている。電力コストは人々が利用するさまざまなサービスへの対価の一部として位置づけられ、サービスと電力の関連が高度化する3,4)

 このような高度電力化社会実現の観点からも、パワーエレクトロニクスの新たなパラダイムの転換が求められている。