本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第84巻、第11号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)。『応用物理』の最新号はこちら(各号の概要は会員登録なしで閲覧いただけます)。

近年、次世代ウェアラブルデバイスとして、絆創膏(ばんそうこう)のように装着感なく快適に健康状態のリアルタイム計測を行うウェアラブル・フレキシブルデバイスの研究が国内外で盛んに行われている。本研究では、ウェアラブル・フレキシブル健康管理デバイスの実現を目指し、衛生的かつ低価格を実現する使い捨てのセンサシート、またプロセスが複雑なフレキシブル回路などの再利用シートで構成されるフレキシブルデバイスシートを提案し開発を行っている。本稿では、本研究の実現へ向けた取り組みについて簡単に紹介する。特に本研究では、無機ナノ材料の印刷技術を開発することで、高性能かつ多機能なフレキシブルデバイスの実現を目指している。

 リストバンド型、腕時計型などのウェアラブル健康管理デバイスの商品化が大きく注目を浴びている。読者の方々はご存じかもしれないが、内閣府による最新の世論調査では、国民の生活における心配事の第2位と第4位に、自分および家族の健康が挙げられている。また「健康」と「幸福度」には強い相関関係があることがわかっており、よりよい健康状態を維持することで国民の幸福度は向上し、ストレスの少ない生活が実現でき、結果として、より活気あふれる社会の構築へとつながる。

 そして、このストレスの少ない生活と活気あふれる社会の構築が幸福度および健康状態をよくする正のサイクルの構築へとつながると考えられる(図1)。したがって、健康状態を向上させるような健康管理デバイスが実現できれば、社会への影響は多大なものになることが予想できる。

図1 フレキシブル健康管理デバイスが目指す健康・幸福向上サイクル
図1 フレキシブル健康管理デバイスが目指す健康・幸福向上サイクル
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 前述の社会の実現へ向け、さまざまな取り組みがなされている。その1つとしてウェアラブルデバイスによる健康管理が挙げられる。ウェアラブルデバイスでは、例えば腕時計内に活動量センサや光学系による脈拍センサなどを搭載したものが一般的である。ウェアラブルデバイスの利点は、睡眠時を含む活動に対する日常の健康状態をリアルタイム測定可能な点にあるべきである。さらに本測定は、装着感や違和感などを感じさせずに計測することで、初めて日常生活における莫大なデータ収集を可能にする。また、多くの人からのデータを収集することでさまざまな健康データを蓄積し、そのデータを基に体調の変化などを事前に検出するような予防医学、または高齢化社会に向けた体調管理や孤独死などの予防へとつなげることが可能となる。

 このような管理を可能にすることで、初めてウェアラブル健康管理デバイスの将来的利用価値を大きく示すことができる。しかしながら、本研究の実現には、まだ多くの課題が残されている。1つめの課題が、デバイスの価格である。現状のウェアラブルデバイスは、安価なものでも活動量計測のみのデバイスで1万円程度、さらに多機能化デバイスとなると数万円となってしまう。先に述べた世論調査の心配事の第3位は「お金」であり、健康状態を観察するためには現状、高価なデバイスの購入が不可欠であり、心配事の2~4位を同時に解決するにはまだ高いハードルが存在する。この高価なデバイスは、利用者の増加を妨げ、活動量と健康状態から予知する予防医学や高齢化社会へ向けた取り組みとしてのさまざまな条件および人からの情報取得が大きく制限されてしまう恐れがある。

 2つめの課題は、現状のウェアラブルデバイスは腕時計型など、基本的に硬い材料で構成されている点である。このような硬い電子デバイスでは、やはり装着感や違和感が大きく、睡眠時など1日の連続的かつさまざまな状態における健康状態の把握が困難となってしまう。このようにウェアラブルデバイスの理想は、安価で違和感なく装着可能、かつ多機能センサを搭載した電子機器である。前述の課題解決および理想的な健康管理デバイスの実現へ向け、我々は印刷技術でセンサをフレキシブル基板上に形成するウェアラブル・フレキシブル多機能デバイスを提案し、図2に示すような絆創膏タイプの健康管理デバイスの実現を目指している 1,2)。特に将来的には図3のような印刷機を用いて「誰でも」、「どこでも」をキーワードに使用用途に合わせたデバイスを低価格で作製できるような基礎技術の開発を行っている。本稿では、これまで実際に作製してきた印刷技術によるフレキシブルセンサについて紹介する。

図2 本研究が目指す使い捨てデバイスシートと再利用デバイスシートによる多機能フレキシブル健康管理デバイスのイメージ
図2 本研究が目指す使い捨てデバイスシートと再利用デバイスシートによる多機能フレキシブル健康管理デバイスのイメージ
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図3 本研究が目指す印刷機によって作製するフレキシブル健康管理デバイスのイメージ
図3 本研究が目指す印刷機によって作製するフレキシブル健康管理デバイスのイメージ
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